『黒部の太陽 文庫新版』
『黒部の太陽 文庫新版』
木本正次著 信濃毎日新聞社 1100円
黒部ダム建設の生命線となるトンネル掘削における大自然と水との闘いを描く
2024年6月号で『高熱隧道』を取り上げたが、今回はそれに関連して、『黒部の太陽』を紹介しよう。『黒部の太陽』は、昭和39(1964)年の毎日新聞夕刊で連載された後、単行本化(毎日新聞社、講談社各刊)され、映画『黒部の太陽』(1968年公開、熊井啓監督、三船敏郎・石原裕次郎主演)の唯一の原作本となった。
平成4(1992)年からは信濃毎日新聞社が文庫版として発行を続け、24回の増刷を重ね、2024年、刷版リニューアルされた。新版では、土井栄画伯から新たに提供された新聞連載時の挿絵約30枚が追加され、本文中の地図も作成し直されたほか、ダム建設前後の地形図や黒部川電源開発のあゆみ(年表)、主な登場人物リストなど資料も加えられた。
『高熱隧道』は、能登半島地震の被害で一般解放・旅行商品化が延期されている「黒部宇奈月キャニオンルート」に関連する話だが、この『黒部の太陽』は、「立山黒部アルペンルート」に関連する話となる。
黒部川の電源開発は、大正時代まで遡るという。戦前に黒部川第三発電所までが完成していたが(仙人谷ダムから取水する新黒部川第三発電所の導水路の建設工事が『高熱隧道』の舞台)、戦後の急速な経済復興で電力が不足し停電が頻発。関西電力は、関西地域の深刻な電力不足を解消するため、さらにその20㎞上流に黒部川第四発電所(黒四)の建設を決定。
黒部渓谷へ膨大なダム建設資材を運び込むために長野県大町市とダム建設地を結ぶ大町ルートが計画され、その要が北アルプスを貫く「関電トンネル」であった。そのトンネルの掘削中に破砕帯(岩盤の中で岩が細かく割れ、地下水を溜め込んだ軟弱な地層)にぶつかり、滝のように流れ出てくる水との闘いが始まった。映画『黒部の太陽』で、石原裕次郎が演じる岩岡が水に流されるシーンを見られた方も多いだろう。
なお、「黒四」の工事は5社で行なわれ、関電トンネルの掘削は熊谷組が担当した。富山の佐藤工業も黒部ダムから発電所までの水路トンネル工事のうち、下流側からの掘削を担当した。
【重要なお知らせ】
黒部峡谷鉄道が令和7年シーズンは全線開通できないことに伴い、黒部峡谷鉄道の全線開通にあわせて予定していた黒部宇奈月キャニオンルートの一般開放・旅行商品化の開始も、令和7年中には開始できないこととなりました。