・ グッドラックとやま 2026街づくりキャンペーン ・サンアントニオから描く松川のグランドデザイン(埴生雅章・元県土木部長インタビュー)

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サンアントニオから描く松川のグランドデザイン

聞き手/月刊グッドラックとやま発行人 中村 孝一

2007(平成19)年7月に創刊30周年記念として掲載した、埴生雅章さん
(当時/富山県土木部長)のスペシャルインタビューを再掲載します。

川の自然の特色を保った開発計画を

中村 森市長がサンアントニオを訪問されましたね。

埴生 やはり、百聞は一見にしかずですよ。一昨年、リバーウォークを訪ねた時のことを想い出しています。

中村 これからの松川の整備に、大変参考になるとおっしゃっていました。埴生さんは現地を訪ねてどんなことを感じられましたか?

埴生 まず、橋の上から見て、「これは松川と一緒だ」と思いました。堤防はなく、掘り込み河道タイプも同じです。上流部で元の河川断面を観察したり、過去の写真を見たりして、初めの頃は松川と同じように、周辺の地面から川にかけて斜面があり、そこに樹木が茂っている状態だったこともわかりました。

中村 今の松川と同じだったんですね。

埴生 ええ、その後、斜面を垂直にして、そこにリバーウォークを整備したことがわかりました。特にハグマンの計画により、川辺にカフェやレストラン、お店を建てるようになり、斜面の部分を全部リバーウォークに整備したわけです。こうすることで、川幅を狭めることなしに、リバーウォークを作ることができたんですね。

中村 なるほど、松川の整備にあたっても、川幅をこれ以上狭めてはいけないですよね。親水の庭のように水面がもっと広い所があると変化があって、市民や観光客からもとても評判が良いですよ。

埴生 水面は貴重なオアシスですからね。こうして、徐々に人工的になり、当初の地形は失われたのに、別の形で付加価値がつき、空間全体の質が高まったのです。

中村 ハグマンが、「開発が進めば進むほど、川の自然の特色が保たれ、その価値が高まる——それが私の考える開発計画のもっとも重要な点である」と述べていますが、ここの所ですね。

都会の混雑から隔離された、峡谷のような空間

埴生 その考え方が一番重要ですね。重要と言えば、「川の深さ」です。これは現地を訪ねてわかったのですが、周囲の地表面から、建物一階分は下がった場所に水面があるんですよ。

中村 そうそう、あれは驚きでしたね。写真を見て〝松川より水面が下がった所にあるな〟と頭では理解できていても、体では感じていないわけです。自分の体をそこに置いて、初めてその空間の質の高さがわかるんです。

埴生 5メートル程下がった所にリバーウォークがあって、言ってみれば、地下一階にもうひとつ別の世界が広がっているわけです。ですから、道路レベルから建物に入ると、一階に入ったつもりが、実は「川の街」から見ると、そこは二階なんです。そして地下におりたつもりが、そこは「川の街」の一階で、突然賑わいが見えてきて驚かされるんですね。

中村 そうなんですね。まるで不思議の国に迷い込んだアリスのように。そこが松川との大きな違いですね。松川も水面をもう2メートル程下げ、それに合わせて、遊歩道も下げることができれば、同じように質の高い空間を作り出すことが可能です。

埴生 それはすごいアイディアですね。これは河川整備の話ではなく、街づくり、都市観光戦略という、桁の大きい話にしないと実現できないでしょう。

中村 確かに。これは神通川から誕生した〝水の都富山〟のシンボルを創り出し、後世に残せるかどうかという、百年に一回あるかないかの大プロジェクトですからね。

▼街の歴史、歴史的建造物の背景、暴れ川をコントロールした治水の工夫なども解説され、街のストーリーテラーとしての役割も果たしている遊覧船。

サンアントニオ成功の秘密 (Ⅰ)

中村 地表レベルから5メートル深く掘り下げることで、都会の混雑や、世俗的な世界から隔離された、別世界を創り出すことができるんですね。

埴生 現地で購入した本には、リニアーパラダイス(線上の楽園)と書かれていました。都市の真ん中に、高質な水と緑のオアシス空間を創出した情熱には本当に驚かされます。
 地表レベルから5メートル掘り込むことで、地上の都市から隔離されたわけですが、さらに、建物によって都市的喧噪を遮断し、静寂で冷涼なダウンタウンの中のオアシスを創り出すことに成功したんです。

中村 しかもリバーウォークは、5メートル深い地下空間にあるため、この水辺をマイクロクライメイトゾーン(小気候)にし、夏でも気温が4、5度低いですしね。

埴生 適度の屈曲、先が見通せない楽しみ、変化のあるシークエンス(次々と眼前に展開する景観)で飽きさせないんですね。

サンアントニオ成功の秘密 (Ⅱ)

中村 リバーウォーク沿いに商業施設を作るには、水位の一定化が不可欠だったわけですが……。

埴生 これは三重の洪水調節施設を設けたわけですね。まず、ダムによる洪水調節、次に河道を直線化、拡幅し、リバーウォークに洪水が入らないように、上流と下流に水門を設置。三つ目として、道路の下に直径8メートル程のバイパストンネルを完成させたんです。

中村 この洪水分水トンネルの完成で、リバーウォークは完全に洪水から守られるようになった。

埴生 水位の一定化がリバーウォークの命ですからね。

▼川幅が広くなったり、狭くなったりと変化することで、美しさや楽しさを創り出している。

サンアントニオ成功の秘密 (Ⅲ)

中村 まるで森林公園の中を川が流れ、レストランやお店が並んでいる感じですよね。

埴生 樹木(自生のヌマスギ)の大木を相当残していますね。これがリバーウォークの環境の質の高さに大きく寄与し、他に代えがたい存在感、雰囲気、緑陰効果をもたらしています。さらに新規に植栽され、草花も効果的に配されているため、地形の改変、建築の林立、環境の施設化が進んだにもかかわらず、自然の雰囲気が保たれているんですね。

中村 サンアントニオ市の公園管理者・リチャード・ハードさんも「リバーウォークの商業的成功は、地上から5メートル低い環境、いつも新しい発見を予感させる曲がりくねった川と共に、レストランや店の背景にある、公園環境が成功の鍵の一つである」と述べています。「高い木々、青々と茂った緑が安らぎを与え、川辺を都市の雑踏から遠ざけてくれる」と。

サンアントニオ成功の秘密 (Ⅳ)

中村 建物が川のすぐ横に建てられていることで、川の街の魅力をいっそう高めていますね。

埴生 市の職員に聞いたところ、建物は河川区域に入って建てられているものが多いとのことでした。それは、洪水の心配がなくなったことが背景にありますが、そのように川に近づくことが、お店にとっても、お客にとっても、税金が入るメリットのある役所にとっても良い、という判断からきているようです。

中村 川のすぐ側に建物があるというのは、魅力的ですね。なによりも自然な雰囲気を感じられます。川沿いのレストランのカフェテラスで食事できるなんて、とてもロマンチックですね。

埴生 本当に素晴らしかったですね。リバーウォークのお店での食事、音楽やイルミネーション、リバー劇場での音楽やダンス、遊覧船での舟遊び。「これは回遊式の日本庭園の応用ではないか、平安時代の舟遊びの楽しみの、現代版ではないか」とも思いました。
 平安貴族が楽しんだ、風流な世界と共通する高度な楽しみが、誰もが楽しめるカタチで、現代の楽園として地球の裏側のここサンアントニオに実現している。造園技術者として、リバーウォークを創造した関係者の努力には、ただただ脱帽です。

中村 サンアントニオのリバーウォークには私たちを魅了し、楽しく、飽きさせない魅力が詰まっていますね。

埴生 とにかく人が多かったですね。平日でも夕方には遊覧船もレストランも満席、行列の状態。成功が成功を呼ぶ、雪だるま式によくなっている感じです。収入が増えれば投資が出来る、環境が良くなる、さらに魅力が増す。羨ましい限りですね。

中村 リチャード・ハードさんが2003年、「川と街づくり国際フォーラム」で来富された際、松川を案内したんです。すると、「松川の誕生した歴史、街の中心を流れる立地、ヒューマンスケールと、どれをとってもサンアントニオで起きたことが、日本の富山で、新たな夢として実現する可能性を秘めている」と感想を述べてくださり、期待しておられることが伝わってきました。

埴生 「ドリーム・カム・トゥルー!」、夢は富山でも必ず実現するのではないでしょうか。

▼川べりのテラスが、潤いあふれる街のシンボル的な景観を作り出している。

[サンアントニオ・リバーウォークとは?]

 1921年の大洪水で壊滅的な被害を受ける中、当初は川の湾曲部をコンクリートでフタをして、上を道路として舗装する計画が浮上。しかし、地元の建築家ハグマンは、単なるバイパス水路を作るのではなく、スペインのロマンチックな雰囲気を残した商業・憩いの場「パセオ・デル・リオ(川の遊歩道)」へと再開発する案を提唱した。
 1939年、公共事業促進局の資金援助によって建設が開始され、現在の基礎となる石造りの橋や階段、歩道が完成。現在は、世界中の都市計画家が「水辺開発の教科書」として視察に訪れている。
 「アラモの砦」等の歴史遺産と近接していることもあり、年間数千万人が訪れるテキサス州最大の観光名所。近年では美術館エリアや世界遺産エリアへと水路が数マイルにわたり拡張され、自然の生態系回復とレクリエーションを見事に両立させている。

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