17★宇宙-そのひろがりをしろう-


宇宙ーそのひろがりをしろうー
加古里子・作 福音館書店

 

中林みぎわ〈Profile〉

◆宮城県生まれ。富山県天文学会会員。平成14年から21年まで富山市天文台勤務。現在は、子育てをしながら富山市科学博物館ボランティアとして活動。好きなものは、星と月、本、石、博物館巡り、お菓子作り、ビートルズ。

 今年5月、一人の絵本作家が亡くなりました。加古里子さん。「だるまちゃん」シリーズや「からすのパンやさん」シリーズをはじめ、600点以上もの作品がこの世に送り出されました。その中には、幼児向けの絵本だけではなく、「かわ」「地球」などの科学絵本も数多く含まれています。今回ご紹介する絵本もその一冊です。タイトルはずばり「宇宙」ですが、ノミやバッタがどれくらい飛ぶかという距離の話から始まり、動物や飛行機がどれくらい速く飛べるかという速さの話が続き、本の半分くらいまでページを読み進めてようやく人工衛星が登場して、太陽や月の話に入ります。一般的な宇宙関連の本(絵本も含めて)の場合、たいていは太陽や月、あるいは星座からはじまりますので、他の本にはない展開です。それは本書が距離や速さを指標にして「宇宙の広がりを知る」ことに重点を置いているからなのでしょう。実際、星空観察会などで天体までの距離などをお話しても「遠すぎてよく分からない」と言われることがあります。しかし、本書のように身近なものの距離や速さから順を追って理解していくと、宇宙の広がりを捉えやすいかと思います。
 ところで本書には、「宇宙の広がりを知る」ためのたくさんのデータが加古さんの絵と共に示されています。中には、卵投げやリンゴの皮むきの距離や荷車が進む速さ、おもちゃの風船が飛んだ距離といった変わったものもあり、それらを一つ一つ見ていくだけでも楽しめます。本書の初版は今からちょうど40年前。その当時の最新データが記載されているため、現在では新しいデータが示されているものもあります。しかし、距離や速さをもって大局的に「宇宙の広がりを知る」ことにはかわりありません。なお、冥王星が惑星から準惑星へと区分が見直されたような大きな変更点は、増刷される際に訂正されています。
 秋は空気が澄み、星がきれいに見える季節です。本書を手に夜空を見上げ、宇宙の広がりを感じてみてはいかがでしょうか。

 

 

おすすめ