18★枕草子


枕草子
上坂信男、神作光一・全訳注
講談社学術文庫

 

中林みぎわ〈Profile〉

◆宮城県生まれ。富山県天文学会会員。平成14年から21年まで富山市天文台勤務。現在は、子育てをしながら富山市科学博物館ボランティアとして活動。好きなものは、星と月、本、石、博物館巡り、お菓子作り、ビートルズ。

 「春は曙」で始まる枕草子に、「星は」の段があるのをご存知ですか?「星は すばる。牽牛星、夕づゝ、よばひ星、少しをかし。尾だになからましかば、まいて。(星は昴、彦星、宵の明星。流れ星は少し興味をひかれる。尾を引かなかったら、もっといいのに。)」作者の清少納言が、興味のある星として真っ先に挙げたのが「すばる」。おうし座にある、プレアデス星団という星の集まりです。「すばる」という言葉は、集める、まとめるという意味の「統まる」が語源とされます。その名のとおり、すばるには肉眼で6〜7個の星を数えることができます(実際には約120個の星の集まり)。すばるはあまり明るくはありませんが、古くから日本人に愛される天体です。かつては日本各地で「六連星」「ごちゃごちゃ星」などさまざまな名前で呼ばれていました。現在でも、「すばる」を題材にした歌がヒットしたり、自動車メーカーの名前になったり。アイドルグループのメンバーにも「すばる」さんがいましたし、国立天文台ハワイ観測所にある望遠鏡の愛称は「すばる望遠鏡」です。明るく目立つ星ではなく、小さな星たちが集まって儚く光っているところに惹かれるのでしょうか。
 すばるは、これからの季節が見ごろです。すばるを探す目印はオリオン座。オリオン座の中央にある三ツ星を西に延ばすと、おうし座のアルデバランという明るい星があり、そこからさらに西に視線を移すと、すばるが見つかります。月明かりがなければ、街の中でも見つかりますよ。
 ところで、清少納言は星を見たうえで「星は」の段を書いたのでしょうか? 実は、星を見ずに書いたとする説があります。平安時代の百科事典にあたる「倭名類聚抄」に出ている星の名前で響きの良いものだけを並べたとする説や、男性(牽牛星)が日暮れを待って(夕づゝ)女性を訪ねる(よばひ星)のは他人に気づかれないほうが良い(尾だに…)ということを暗に述べているとする説もあります。しかし私個人としては、清少納言は感性が豊かな女性だったようですから、星空を見上げて「やっぱり星はすばるがいいわ」と書いたのではないかと思うのです。

 

 

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