『小さな空間から都市をプランニングする』

 

『小さな空間から都市をプランニングする』
武田重昭ほか編著 学芸出版社 2400円+税

 

都市に大きな影響を与えている、小さな空間についてのスタディをまとめた本

 (2024年)3月末に、富山市立図書館本館2階で開催された「まちづくりセミナー」(NPO法人GPネットワーク主催)で講師を務めた武田重昭氏らが編著者であるこの本は、日本都市計画学会の社会連携交流組織〝都市空間のつくり方研究会〟が、実際に都市に大きな影響を与えている小さな空間についてのスタディの成果を取りまとめたものである。そして、はじめから都市の全体を理論で構築するのではなく、具体的な空間での解を重ねた先に都市の全体を彷彿とさせるような方法ー都市のプランニングーを提示している。武田氏は同研究会を代表して、〝目に見えた成果をあげつつある小さな空間のつくり方をさらに変えることで、大きな都市に与える影響を予測し、その変化の兆しを好ましい方向に導くことができれば、私たちはもっと都市の未来に期待を寄せることができるはずだ〟と述べる。
 また、同氏は、『ゆっくりと時間をかけて育てる』というタイトルで、「時間をかけることでしかつくれない価値」についても指摘している。少し引用しよう。
 〝そもそも都市の価値は、ゆっくりとしか育たないものなのだ。にもかかわらず、現在の都市への働きかけは単年度の予算執行で区切られた、表面的で即応的な対応ばかりが目に付く。短期間ですべてをつくり上げるような事業では、そこに内在していたはずの空間の魅力や人々の関係性を失ってしまうリスクが高く、均質で排他的な空間になりやすい。空間だけが急激に変化をしたとしても、そこにかかわる人々が取り残されていては、新しい価値は生まれない。長い時間のなかで、多くの人々の行動と意思が積み重ねられた結果、はじめて魅力的な都市ができるのだ。プランニングの基底には、魅力的な都市は突然できあがるものではないという認識がなければならない。壮大な時間スケールが都市の向こう側に透けて見えることで、わたしたちはその都市の奥深い魅力を感じ取ることができるのである〟。
 富山でも参考にしたい考え方である。

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