「立山黒部アルペンルート」の魅力を世界に発信しよう!

2022 グッドラックとやま座談会

 

 昨年、全線開業50周年の節目を迎え、今年は次なる50年へ向けて、新たな第1歩を踏み出した立山黒部アルペンルート。北アルプスを貫く世界有数の山岳観光ルートであり、日本三霊山の一つ・立山の大自然を満喫できる貴重なこの空間を、私たち県民が富山の大切な宝として誇りを持ち、さらに盛り上げていくことが大切ではないだろうか。コロナ禍からの回復を見据えた本年の開業にあたり、関係者で話し合った。

 

◇座談会出席者 (順不同)

小林 誠さん
立山貫光らいちょう会会長
富山日野自動車㈱
代表取締役社長

見角 要さん
立山黒部貫光㈱
代表取締役社長

杉浦孝典さん
JTB富山支店
支店長

山下章子さん
富山県地方創世局
観光振興室
観光戦略課課長

萩原裕美さん
富山県シェアリング
ネイチャー協会理事長

小池正俊さん
グッドラックとやま
読者代表

・司会/中村孝一
(グッドラックとやま発行人)

 

中村 立山黒部アルペンルートが、今年も4月15日に全線開通しました。ご存知の通り、昨今のコロナ禍で観光産業は大打撃を受けておりまして、富山県を代表する観光地、立山黒部アルペンルートも例外ではありません。今回は「立山貫光らいちょう会」会長の小林さんから、「ぜひ立山黒部アルペンルートを盛り上げる企画を!」とご提案をいただき、座談会を企画させていただきました。

小林 「立山貫光らいちょう会」は立山黒部貫光の取引業者による後援会で、前任の父(富山日野自動車会長・小林紀男氏)から会長を引き継いだのは一昨年の10月です。 翌年の2021年は、立山黒部アルペンルートの全線開業50周年という記念すべき節目の年でしたが、あいにくのコロナ禍となってしまいました。
 立山黒部アルペンルートが開業した当初、私は6、7歳でしたが、当社の創業者である祖父がよく連れて行ってくれ、その後はスキーを始めたこともあり、若い頃は合宿等で利用していました。今回は取引業者としてというよりは、スキーなどの利用者の一人として発言させていただきます。
 個人的にも非常に思い入れのあるアルペンルートですので、今年はぜひたくさんの方に来ていただいて、その魅力を知ってほしいと思っています。

見角 2年間のコロナ禍で、一昨年は従来比で26%、昨年は34%まで業績がダウンしました。今年は海外からはまだ厳しいですが、ホテルの予約も順調に入ってきており、なんとか50%近くまでには戻したいと思っています。

中村 春の「雪の大谷」は世界的にも有名になりましたね。

 

常識を覆した雪の大谷ウォーク 

 

見角 目玉企画となった「雪の大谷ウォーク」ですが、始めたきっかけは平成3年のある大阪の女性からの要望なんです。当時はまだ1車線で、私たちにはあの場所を歩くなんて、とても考えられなかったんですが…。そもそも道路公社が管理する有料道路なので、許可も必要ですし。
 そんな中で、少しお客さんに歩いてもらおうと始めたのが平成6年。最初は3日間で1200人程度のお客様でしたが、どんどん人気が出て、平成12年には1車線では無理だということになりました。1車線は歩行者天国にし、もう1車線はバスを交互に運行させるようにしたところ、どーんとお客様が増え、コロナ禍前はあの約2カ月間のイベントだけで、33万人の方に来ていただいていました。地元で常に雪を見ていると、この雪の壁が商品になるとは思ってもみませんでしたが…。

中村 謙虚に利用者の声を聞かれたことが、観光客の大幅アップにつながったわけですね。

見角 そうですね。当初、現場ではとても無理だという声が多かったんです。30分でもバスを止めると、回転が悪くなってしまいますので、室堂から降りていくバスが戻ってこなくてヒヤヒヤしたこともありました。
 実は雪の壁というのは、バス1台分の幅がすごく迫力がある風景なんです。なので、2車線にするにあたっては、社内で意見が分かれることもありました。昨年は50周年の記念事業として、昔に戻って1車線だけの部分を作ったんですが、同じ高さでも見え方が全然違いましたね。

杉浦 今のお話を聞いて、われわれ旅行業者もお客様の声からヒントを得ていく必要があるなと改めて感じています。
 コロナ前の2019年度、JTBが富山県内で契約している宿泊施設の販売額を見ても、「ホテル立山」と「弥陀ヶ原ホテル」の2施設は県全体でも大きなウェイトを占め、プラスマイナス両面で大きなインパクトを与える大切な施設様であると共に、立山黒部アルペンルートは富山・北陸を代表する重要な観光名所と言えます。
 そんな中、コロナ禍で休業しておられた「弥陀ヶ原ホテル」が5月に経営再開されるとの朗報に、我々旅行業界としても本年は大きく期待をしているところです。

 

▼バス1台分の幅の「雪の大谷」は、そびえ立つ雪の壁が間近に迫り
大迫力だ。(トップの写真は、近年の2車線の「雪の大谷」)
写真提供/平成2年 第9回「立山黒部フォトコンテスト」入賞作品 竹本豊様

 

地元民にも親しまれる観光名所に

 

山下 県としてはこの2年間、国の経済対策で需要喚起をしつつ、観光事業者がコロナ後に復活できるよう底支えする政策を行ってきました。今年もシーズンに入り、まずは県内の方、その後は県外の方に来ていただけるよう、積極的な策を取っていきたいと思っています。2021年度の県民キャンペーンでは、地元の方には半額で利用していただくことができ、立山黒部アルペンルートの魅力を知っていただく良い機会だったと思っています。

見角 確かに昨年は近県から修学旅行で来ていただいたり、県内の方に改めて見直していただけたのは良かったですね。

萩原 私たちの協会は全国でネイチャーゲームを通して自然を体感する活動をしていますが、立山黒部アルペンルートを既にご存知の方は多いですね。一方では、県民がもっとその良さを認識する必要性を感じています。

中村 小池さんはまさに地元の立山町在住ですが…。

小池 確かに地元ですが、どちらかと言えば遠い存在になっているかもしれませんね。地元民が友達や親戚などに「いい所だから行ってこよう」と、自信を持って誘ってもらえるような仕掛けづくりが大切かと思います。
 また、圧倒的に長野産のお土産が多いので、もっと富山産のものを置いてほしいという声も聞いています。富山の認知度や誇りを高めることにもつながりますし。

見角 実はこれがなかなか難しい問題で、長野は観光地が多いので、お土産の業者も多いんですが、富山にはそもそもお土産業者が少ないんです。

山下 アルペンルートでお土産として販売するとなると、賞味期限や納める個数などの問題があり、対応できる業者が限られてくるんです。富山には伝統のある和菓子屋さんなどもたくさんありますが、お土産として扱うのは難しく、課題の一つになっています。

小林 県外の方に富山で見る所を聞かれて、立山黒部アルペンルートと答えると、「えっ、富山県だったの」と言われることがあります。長野県にある、と思っている人がけっこういるんですよ。さらに言うと、富山がどこにあるのか知らない人もかなりいますよね。

山下 観光関連の事業者が多い県では、事業者が自らどんどんPRもするため広告もよく目にします。富山はPR下手と言われがちですが、産業構造の違いの影響が大きいですね。観光を産業として収益化していく仕組みを作っていくことが大事だと思っています。

見角 よく都市圏に行くと、駅にいろんなコースのバスツアーがありますが、富山でもそういうのがあったらいいのかなと。富山には見所がたくさんありますし、それらと連携していくことが、さらなる発展につながるのかなと思っています。

萩原 富山県民は立山黒部アルペンルートと言えば立山登山。必ず頂上に行かなくてはならないと思っている人が多いんですが、弥陀ヶ原一帯を散策したり、登らなくても十分満喫できますよね。

 

多彩な楽しみ方でもっと気軽に

 

見角 そうなんです。みくりが池を1周でもいいですし、それぞれの状態に合わせて楽しんでいただける見所がたくさんあります。

小林 天狗平から室堂まで徒歩で約1時間ですが、じゅうぶん見応えのある景色ですよ。

見角 そういった見所についても、われわれがもっと発信していく必要がありますね。

萩原 気軽に安全に楽しめるということがわかれば、お子さん連れの家族や年配の方も行きやすいですよね。また、私は小学6年生の時に学校から立山登山に行きましたが、県民であれば子どもの時に一度は登る機会があるといいのかなと思います。

見角 小さい頃に登った感覚は、大人になった時に絶対戻ってきますからね。小学校の立山登山を、ぜひ復活していただけるよう働きかけていきたいと思っています。 今はスマホでWEB予約すれば、自動発券機ですぐに切符を受け取れますし、待ち時間もかなり緩和されてきました。県民の皆さんには、もっと気軽に訪れていただければと思います。

小林 スキーヤーの立場で言うと、今、バックカントリーというのが流行っていまして、立山はまさに最高の場所です。まだ外国人のお客様は難しいですが、日本国内にある外国の大使館関係の方々にPRするなど、どんどんアピールしていったらいいと思います。

 

霊峰立山は富山の貴重な財産

 

見角 以前、日本在住のインド大使の方を立山にご案内したところ、大変感動されたことがありました。創業者・佐伯宗義の「立山は単なる物見遊山の山ではない。人間形成の道場だ」との言葉を、私たちは常に意識していかなければと思っていますが、日本三霊山の一つとして、誇りを持って守り続けていきたいですね。

杉浦 2024年には北陸新幹線敦賀延伸、黒部ルートの一般開放が予定されていますが、これに合わせてJTBグループでは、北陸3県へ集中販売、集中送客する全国キャンペーンを現在誘致中です。この機会に、黒部ルートやアルペンルートの賑わいをさらに創出するため、宇奈月温泉を中心とした県内各所で、少しでも来訪客が回遊し、長く滞在したくなるような着地コンテンツや商品など、仕組みづくりをして参りたいと考えています。

山下 先頃、県では今後の観光プランを策定し、大きな目標として観光消費額を上げることを掲げました。観光を産業として育て、観光客に富山に滞在して愉しんでいただき、気持ちよくお金を落としていただくことで、富山の経済が回るように観光振興に取り組んでいきたいと思います。
 また、観光で富山県がイメージアップすることは、都会に憧れて出て行ってしまった若者たちが、改めていい所だと再認識して戻ってくることや、地元の方々の誇りにもつながります。

 

▼北アルプスで最も美しい火山湖といわれる、室堂のシンボル「みくりが池」。写真提供/立山黒部アルペンルート

 

萩原 私がネイチャーゲームを始めたのも、小学校で立山の大自然に触れた影響が大きいです。大好きな立山黒部アルペンルートの魅力を、これからどんどん皆さんと共有していきたいと思います。

小池 先ほど見角社長から、「立山は神聖な山」というお話がありましたが、立山の伏流水が湧き出る富山市内の名所で、「これは神の水だ!」と感動しておられる外国人にお会いしたことがあります。富山県民としては、立山についてもっと深く知り、考えていく必要がありそうですね。

中村 中沖元知事は「愛する気持ちがもっと知りたい、との思いに繋がり、知ることでさらに愛するようになる」と仰っておられました。大切な財産である立山黒部アルペンルートについて私たち県民がもっと関心を持ち、誇りを持って紹介していきたいですね。

 

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