松川を整備し、神通川の賑わいを取り戻そう!

・2020グッドラック街づくりキャンペーン・
グッドラックとやま 2007(平成19)年12月号特集より

 本誌で街づくり座談会を行う中、「富山市内に観光名所を!」との市民の声に応えて、1988年4月、松川に遊覧船がオープンした。以来、魅力ある“水の都”創造に向けて模索を続けてきたが、理想的なモデル都市として浮かび上がってきたのが、アメリカのサンアントニオ市だった。
 その魅力の秘密を探るため、1997年、弊誌発行人・中村孝一は県の河川技師を伴い、取材のため現地を訪問。その折、サンアントニオ市公園管理者のリチャード・ハード氏から、「川には人が楽しめる活動があるとか、何か商業的な活動が行われているとか、人がそこに来るという手だてが必要」と貴重なアドバイスをいただいた。
 松川を、具体的にどのような空間として整備すればよいのか—。これまで県議、市議、有識者らとともに行ってきた活動や座談会等から、再度振り返ってみよう。

 

 

 今回は、過去の掲載記事より、これまでの松川を活かした〝水の都・とやま〟に向けての弊誌の取り組みとその反応を、時系列に取り上げてみたい。

 

座談会を積み重ね具体案を探る

 グッドラック創刊25周年を記念して行われた座談会「〝水の都・とやま〟のロマンが広がる」(2002年11月号)では、「松川、いたち川、富岩運河をつなぎ、滞在型の観光地に!」(嶋倉幸夫・元県土木部長、林建設工業(株)社長)、「松川の水位の安定化が急務」(今井清隆・元富山土木センター所長)、「四季折々の催し物と食が大切」(朝日重剛・朝日印刷(株)会長)、「松川べりを、富山の歴史や文化を体験できる場に」(北山直人・北山ナーセリー社長)と、夢に向かっての具体案が出された。
 また、翌2003年9月には、神通川の直線化100周年を記念して、「リバーフェスタ in とやま 川と街づくり国際フォーラム」が企画され、これに先立って県議、市議との座談会を行った。
 県議との座談会では、「松川、いたち川、富岩運河の一体化した整備を」(杉本正氏、吉田良三氏、横山真人氏)との意見が多く、河床を掘り下げて線上の公園としてつなぎ、河川回廊を誕生させてはと、夢が広がった。
 また、「川べりを生活と密接な空間に」(中川忠昭氏)、「水をきれいにするには、下水道の整備が急務」(佐藤英逸氏)、「人が歩きたくなるような仕掛けづくりを」(岡田一郎氏)、「船運を新しい形で復活させては」(犬島肇氏)と、活発な意見が飛び出した。

 

松川の可能性を再確認

 一方、市議7名との座談会でも、松川、いたち川、富岩運河を一体化した『神通回廊』の整備構想に夢が膨らみ、「川と街づくり国際フォーラム」に向けて市民の意識も高まってきた。
「リバーフェスタ in とやま」では、松川周辺で5日間にわたり多彩なイベントを開催。水上リバーパレードやライブ、川の街絵画展などに多くの人々が訪れ、市民からは「こんなイベントが毎年あればよい」との声も多く聞かれた。
 また、「川と街づくり国際フォーラム」に出席するため来日していたリチャード・ハード氏(サンアントニオ市公園管理者)も、「サンアントニオに負けないくらい素晴らしい!」と絶賛。松川べりが、サンアントニオのリバーウォーク同様、とても大きな魅力と可能性を秘めていることが実証された。
 さらに、ハード氏はシンポジウムの中で「まずマスタープランを作って、川に関する基本構想を作ることが必要。それについて皆で対話を始め、一つ一つのパズルが全部一緒になった時に、この夢は叶うでしょう」と力強く語り〝水の都・とやま〟実現に向けて、さらに大きな一歩が踏み出された。

 

サンアントニオへ視察団が次々と

 そして、この「リバーフェスタ」開催直後の2003年10月、富山商工会議所の視察団がサンアントニオを訪問。八島健三会頭は、「富山とサンアントニオは共通点が多いが、富山は川を市民の財産として生かしきっていないという点が決定的に違う」と語り、「昔あった西側のお堀を復活させ、国際会議場とつなぎ、城址公園を拠点に松川のリバーウォークを作っていくことが大切」と、具体案を述べた。
 また、濱谷元一郎専務理事は、「サンアントニオのリバーウォークは、降りてみると別世界が広がっている」とその魅力を語った。
 さらに11月20日、中村の案内で富山県議、富山市議をはじめとする総勢19名の視察団が渡米。サンアントニオの観光客の多さに驚きながら、熱心な視察が行われた。
 県議からは、「水辺空間の素晴らしさを目の当たりにし、今後の富山での取り組みに向け、意を強くした」(中川忠昭氏)、「多くの県民、市民にも実際に見てほしい」(杉本正氏)、「早急に民間を巻き込んだ協議会を立ち上げ、モデル的な整備を始めるべき」(五十嵐務氏・横山真人氏)、「できるところから焦点を決めて、具体化していく必要がある」(佐藤英逸氏)との熱い声が聞かれた。

 


▲川を最大限に活かしたオンリーワンの街として、サンアントニオに学ぶ点は多い。

 

目指すべき姿について議論が深まる

 一方、市議からも「富山の四季を利用しながら、水辺を生かしては」(鋪田博紀氏)、「滞在型観光の拠点という意味からも、川べりを充実できないか」(村上和久氏)との活発な意見が出された。
 「夢の具体化には市民の賛同、協賛を得ることが大切」(中村均氏)、「遊び心を川べりに生かした整備が必要」(堀田松一氏)と様々な声も聞かれ、視察団団長の松本弘行市議会議員はその後、市議会議長に視察報告書を提出。
 「建設部の方にも配りますと、〝壮大な夢〟だと驚いておられました。まず手のつけられるところから、実現の可能性のあるところからやっていけば、新しい富山市の魅力を作り出す都市改造の機会となります」(松本氏)
 また、同行した今井清隆氏(元県河川課長)からは、「将来の大計と切り離し、当面は松川区間の既存施設を活用し、利便性、快適性を向上させてはどうか。一つ目は、いたち川との合流点に閘門や堰を設け、水位を安定させる。二つ目は、歴史的なものの整備。三つ目は、西側のお堀を再現し松川から遊覧船の乗り入れを可能にすること」と、具体的な提案があり、目指すべき松川の姿が、少しずつ明確になってきた。

 


▲サンアントニオ・リバーウォークは、自然と商業施設がバランス良く配置されている。

 

サンアントニオの成功の秘密を学ぶ

 2005年7月、中村の案内で澤合敏博氏(元富山県出納長)、埴生雅章氏(元富山県土木部長)が、サンアントニオを視察。橋の上からリバーウォークを見て、「これは松川と同じだ!」と感動。
 そして、造園技術者でもある埴生氏は、その成功の秘密として、次の4つの点に着目した。
㈠地表レベルから5メートル掘り込むことで、地上の世界から隔離されたオアシス空間を創り出している。
㈡洪水対策を徹底し、水位を一定化している。
㈢樹木の保護や草花の効果的な植栽により、質の高い公園環境を創出している。
㈣川沿いにレストランやリバー劇場など、賑わいを創り出す魅力的な空間がたくさん存在する。
 「これは回遊式日本庭園の応用ではないかと思うくらい、平安貴族が楽しんだ風流な世界と共通する高度な楽しみが、誰もが楽しめるかたちで、サンアントニオに実現していました」と、埴生氏はその素晴らしさを語り、松川の未来に夢を膨らませた。
 そして2007年5月、森雅志市長がついに市幹部とサンアントニオを訪問。「百聞は一見にしかずでした」と、予想以上の美しさと賑わいに驚いたという。
 「今後の松川の整備に大変参考になる」との確信を持って帰国した森市長は、具体的な整備案として、地下貯留槽の設置を検討していることを明らかにした。
 「19年度から、合流式下水道の雨水をどう処理するか調査を始めます。汚物の混入を防ぐためには、大きな貯留槽を作るしかないわけですが、これを松川の底に作り、ずっと下流に行って出す——。これがきちっとできれば、松川の水質は格段に良くなります。
 それができれば、河畔にカフェやお店、ホテルなどを作ろうという発想になってくるのではないでしょうか」
 公共交通を再整備し、観光客が安心して移動できる街づくりを進める森市長。その中で、都心の河川空間(松川一帯)をリバーフロントとして整備していくことは、大変重要な意味を持っている。
 「人口減少化時代に入った上、新幹線で2時間で東京とつながる。さらに、新幹線の終着駅が金沢ということを考えると、富山ならではの魅力づくりが急務となります。市民の皆さんがわくわくするような施策が必要であり、松川の可能性を最大限に生かした、魅力ある街づくりを進めていきたいですね」(森市長)
 アメリカの水都・サンアントニオの研究を重ねながら、次第に明確になってきた松川のグランド・デザイン。水辺を活かしたオンリーワンの魅力を持つ街・富山として、全国に発信される日を夢見つつ、さらなる挑戦は続く。

2017年、弊誌が事務局となり、官民連携で松川整備について考える〝水の都とやま推進協議会〟(リンク)を設立。これまでの蓄積を活かし、着実に目標に向かって行こうと、決意を新たにした。そんな中、本年は感染症の流行を契機に、世界情勢が混迷を極め、それぞれの街の魅力を楽しむことすら難しい状況となっている。しかし、これまでの活動を活かし、富山ならではの魅力的な水辺空間の創出に向けて、1歩ずつでも歩みを進めて行きたい。

※2018年に「松川雨水貯留施設」が完成。

 


▲「松川・いたち川等水辺空間活用方策検討委員会」では、“西のお堀を復元し、松川とつなぐ”という、夢のある提言をもとにしたパースも完成させた。富山の明治大正期にあった建築物を復元して、お堀の西側に配置している。左から、西洋料理店「対青閣」、「県立富山薬業専門学校」、「旧・富山市役所」、「旧・富山市立図書館」。実物より大きさは小さくても、復元できれば富山の歴史がよみがえり、市民の誇りを取り戻すことにつながるのではなかろうか。

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