松川をロマンチックで楽しい水辺空間に !

・創刊45周年記念企画 2022 グッドラック 街づくりを考える・
– 「グッドラックとやま」 平成9(1997)年11月号 創刊20周年記念座談会より –

 県都・富山市の中心部を流れる松川は、神通川の流れを今に伝える歴史的にも重要な川である。弊誌ではこの川べりを楽しく、くつろげる魅力的な空間にできないかと座談会を重ね、多くの皆様方から貴重な意見を伺ってきた。今回の創刊45周年記念号では、創刊20周年記念の座談会を振り返ってみたい。

◇座談会出席者
[役職は平成9(1997)年の座談会開催当時]

今井清隆 さん 富山県土木部河川課長
中藤康俊 さん 富山大学教授農学博士
小川 弘 さん 北陸経済研究所専務理事
加野 実 さん 富山コンベンションビューロー理事・事務局長
笹倉慶造 さん 富山県自然保護協会副会長
家城和歌子 さん 和会 当主
・司会/中村孝一 (月刊グッドラックとやま発行人)

 

松川ならではのコンセプトを

中村 今年(1997年)、中沖知事が「青年の翼」で視察に行かれたアメリカ・サンアントニオへ行ってきましたが、大変素晴らしいところでした。松川の護岸は土と石ですが、この護岸にホテルやレストラン、お店が立ち並んで大変賑わっていました。さらに川沿いの散歩道(リバーウォーク)を歩いていくと、兼六園の庭園のように大きな木がそびえているところもありました。
 ここは歴史的にも大洪水をきっかけにバイパスを作って、湾曲部分を生かしている点など、松川の歴史と全く同じなんですね。そういう意味で同じダイヤモンドでも、松川はまだ原石のままで、サンアントニオは何十年もかけて磨き上げてきたということです。
 松川の独自の地形や歴史を生かして、誰もが楽しめる魅力的な空間を創造することができれば〝いかに街の中心に人を集めるか〟という、今、富山が抱えている問題も解決できると思うんですよね。

小川 そうですね。私はコンセプトが一番大切だと思うんです。「松川」という名前で、どう人を集めるかということをはっきりすれば、とてもスッキリしてくるのではないでしょうか。また、城址公園との一体化ということも必要になってくると思います。
 サンアントニオと同じでなくても、松川に合わせたコンセプト作りが必要だと思います。

中藤 富山は川や水に恵まれすぎて、むしろその被害を受けたということで、どうも水とか川を避けるきらいがあります。
 また、松川の左岸側は神通川の廃川地ですから、その利用は県庁、市役所、電気ビルといった公共的な建物が多いですね。そのために、松川は非常に良い川だと思うんですが、「賑わい」とか「うるおい」といった面で、市民への浸透が弱くなっていると思います。その点では、市民がもっと参加できる新たな仕掛けを工夫してみる必要がありますね。

 

川を中心にした発想で整備を

笹倉 私は朝、松川沿いをよく散歩しているんです。それでつくづく思うのは、松川のリバーウォークの場合、歩いていて途中で橋で中断されるんですよ。やっぱり川というのは、川沿いにずっと歩いてみて初めて親しめるし、その良さがわかると思うんですね。
 それから城址公園沿いはいいんですが、その他のところは横に車がどんどん走っていき、歩いていても気分が出ないですよね。
 また、県や市がスポット的に親水公園を作っておられますが、それらがうまく結びついていないんですね。川の両側の車道を潰し、川を中心にした公園にしたら素晴らしいですね。

中村 確かにリバーウォークを歩いていて、車が見えると興醒めしますよね。それに橋で中断され、階段で道路に上がると、また日常の喧騒に戻ってしまうんですね。

笹倉 せっかくいい気分になっていたのに、きわめて日常的な風景で中断されてしまう……。

中村 サンアントニオの場合は、橋の下も全部通ることができ、対岸に行くのも歩行者専用のアーチ型の橋があるんです。
 また、川と道路面の落差が深いので、極端な話、峡谷へ入り込んだ感じで、都市のど真ん中なのに、大木が生い茂っていたり、花が咲いていたりと、まるで森林の中に迷い込んだような錯覚を覚えました。
 さらに、遊歩道から上がらなくても、喉が渇いたらコーヒーを飲むところがあり、お腹が空けば食事もでき、トイレもあってと、全ての用が足せるようになっているんです。サンアントニオは水門を作ることによって、遊歩道と水面の差がほんの10センチ程にもかかわらず、雨がいくら降っても水が遊歩道に上がらないようにしているんです。松川の場合は、雨が降ると増水し、泥が遊歩道に上って臭いし、歩くのがちょっと困難になります。

小川 考えてみれば、小樽運河にしても周辺にガラス屋さんやジンギスカン料理の店などがあって、観光客もたくさん来ているんですよね。ちょっと歩けるのがいいですね。

 

松川の地形や歴史を生かすことが必要

中村 そうなんです。なので、松川独自の地形や歴史を生かして、河畔の自然と一体となった施設を作っていくことが、魅力ある都市を作ることにつながるんです。  サンアントニオは1968年に川とその一帯を使って世界万博を開催した際、富山市の国際会議場のようなコンベンションセンターを作り、そこへ水路を人工的に延ばして、遊歩道でも舟でも行けるようにしました。そして、このユニークな街づくりによって、10年先まで予約が一杯という大コンベンション都市に成長したんです。

加野 それはすごいですね! 今、国際会議場が話題に上りましたが、アフターコンベンションは城址公園でやるというのも、特に外国人に喜ばれるのではないかと。そういったことを考えた時に、西側にあったお堀を復元し、松川とつなぐことができないかと考えたりするわけです。
 人を集めるという面では、夏にイベントを開催するのはどうでしょうか。例えば、船頭さんに竿の扱いを習って、中学・高校同士の笹舟の対抗試合をやるとか。

 

お堀の復元で歴史を掘り起こす

中村 なるほど。確かに、ベニスではゴンドラの競技をやっていますね。一時期は船頭さんもかなりおられたそうですが、昔からの体験を通じ、若者に歴史をつないでいくことも大切ですね。
 先ほどはお堀をつなぐという話も出ましたが、戦中までは城址大通り沿いと市立図書館のあたりにお堀があったんです。けれど、戦災のがれきで埋め立ててしまったそうなので、お堀があった歴史を復元するということにもなっていいいですね。

笹倉 水位の面ではどういうことになりますか?

今井 お堀側が少し高いかもしれませんね。

笹倉 つなぐことができれば、都市の美観からも非常に格調高いものになりますね。

中村 西側のお堀を復元できたら素晴らしいですね。また、川べりでイベントをやったらどうかという提案がございましたが、サンアントニオでもリバー劇場という川べりの劇場を作り、スペインやメキシコの踊りなどを披露しています。
 今年の5月、全国から20誌のタウン誌を富山に招待したのですが、その際に和会の皆さんに松川の遊歩道で踊っていただき、とても感激されたんですよ。

 

▼街の中心にリゾートのような空間を作り出す、川べりのカフェ。(アメリカ・サンアントニオ)

 

家城 松川べりは、自然を感じながら家族と散歩する、そんな場所になってほしいですね。また月に一度でも、川べりでバザールをやるというのも夢がありますね。
 コンサートのできるリバー劇場があれば、若者が散歩しながら集まってくると思いますし……。そして、夜の照明をもっと明るくムードあるものにして、夜でも語り合いのできる場所があったりと、目玉になるものを考える必要がありますね。

 

治水・利水から親水へ

中村 そうなると素晴らしいですね。リバーウォークを構想したロバート・ハグマンのように、まず夢を見る。そして、その夢を現実にしていきたいですね。

今井 富山県は「川の王国とやま」ということで、これまで「治水」「利水」によって発展してきたわけですが、「親水」にも力を入れています。松川については、上流の土川にラバーダムを作って浄化用水を取り入れたり、洪水対策として放水門を作ったりして、安全性を一応確保した上で散策路を作ったりしておりますが、今ひとつということかと思います。
 私どもも新たな仕掛けが必要であるとの観点から、いろいろ取り組んでいますが、今年から国の政策としては「水と緑のネットワーク推進構想」が制度化し、富山市は今年の7月に登録を受けています。この構想が完成するまでには相当時間がかかりますが、それを待つのではなく、今、何をやるべきかという視点で順次取り組んでいきたいと思っています。
 その一つとして、先だって完成した富岩運河の環水公園へも、いたち川から浄化のために水を入れようということでやっております。また、私どもでは「水辺の回廊づくり」と名づけていますが、川べりをずっと散策できる、親しみのあるものにしたいですね。
 また、増水すると松川の遊歩道に泥が残って汚いので、遊歩道に水が上がらないよう、きっちり抑えていきたいですね。
 さらに住民の方々の意見も十分取り入れて、水と緑のネットワークづくりに生かしていきたいと考えています。

 

新しい考え方で取り組みを

中村 サンアントニオの場合は、遊歩道はものすごくきれいなんです。聞きましたら、朝の6時から8時まで毎日、行政の方で清掃しているということでした。

今井 例えば県都である富山市の中心部にある松川べりだけは、特別の仕掛けがあってもいいのかな、といった新しい考え方で取り組んでいきたいですね。
 幸い、富山県は明治時代にオランダ人の技師、デ・レーケを招き、その提言を受け入れて神通川にバイパスをつくり、洪水を治めることに成功するという、素晴らしい歴史を持っているわけですが、こうした進歩的な考え方で魅力的な街をつくっていきたいですね。

中村 今日は皆様から、とても楽しい夢のある話をお聞かせいただきました。これが全部実現していけば、本当にすごいことになると思います。本日は、誠にありがとうございました。

 

▼川を中心に魅力的な街を創り上げたサンアントニオ。このビルの地階には、ハグマンの事務所があった。

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