25★「天象の万葉集」


天象の万葉集
高岡市万葉歴史館・編
笠間書院

 

中林みぎわ〈Profile〉

◆宮城県生まれ。富山県天文学会会員。平成14年から21年まで富山市天文台勤務。現在は、子育てをしながら富山市科学博物館ボランティアとして活動。好きなものは、星と月、本、石、博物館巡り、お菓子作り、ビートルズ。

 元号が平成から令和へと変わりました。「令和」が万葉集から引用されたことで、万葉集に注目が集まっています。そこで今回は、高岡市万葉歴史館が年一回刊行している論集の中から一冊ご紹介します。タイトルにある天象とは、太陽や月、星などの天体や、雲や風、雨などの気象に関する現象のことです。本書は、当時の人々が天象をどのようにとらえ、歌に詠んだのか、万葉集をそれぞれの天象ごとに論じた論集です。本書によると、万葉集に収められた4530首余りの歌の中で、月を詠んだものは188首。万葉集の歌が詠まれた奈良時代までは、男女貴賎問わず天皇や貴族から無名の庶民までが自由に月を見て、歌に詠んでいたようです。観月(お月見)が貴族の間で流行したり、女性が月を見ることがタブー視されたりした平安時代とは対照的です。一方、星にまつわる歌は130首余りありますが、そのほとんどは七夕伝説に絡めて詠まれた恋の歌です。七夕以外の星の歌はわずかに4首。しかもそのうち3首は「金星の見える夕方」のような時間を表すためか、あるいは比喩として星が用いられただけの歌です。実は「古事記」や「日本書紀」といった、万葉集とほぼ同時代に完成した書物にも星に関する記述はほとんど出てきません。当時の人々は星を愛でる風習がなかったのでしょうか。街灯などない奈良時代には満天の星空が見えたはずなのに、星の美しさを詠んだ歌が万葉集の中に一首しかないというのは少し残念に思えます。その唯一の歌とは、柿本人麻呂の
 天の海に雲の波立ち月の舟星の林に漕ぎ隠る見ゆ
です(巻七・一〇六八)。〝雲の波が立つ海のような星空に、月の舟を漕ぎ出していく〟そんな雄大な情景が描かれていて、個人的にとても好きな歌です。しかし専門家の評価はあまり高くなく、国文学者の折口信夫はかつて自著の中で「極めて幼稚な趣向」と一刀両断。今回ご紹介の論集の中でもあまり触れられておらず、それも少し残念…


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