6★月のえくぼ(クレーター)を見た男 麻田剛立


月のえくぼを見た男 麻田剛立
鹿毛敏夫・著 くもん出版

 

中林みぎわ〈Profile〉

◆宮城県生まれ。富山県天文学会会員。平成14年から21年まで富山市天文台勤務。現在は、子育てをしながら富山市科学博物館ボランティアとして活動。好きなものは、星と月、本、石、博物館巡り、お菓子作り、ビートルズ。

 秋になりました。秋になるとお月さまが見たくなります(私だけ?)。月に望遠鏡を向けると、クレーターまではっきり見られます。クレーターには、過去に功績を挙げた天文学者や科学者の名前がつけられています。その中には日本人の名前がついたクレーターも10個あることをご存知ですか? そのひとつに「アサダ」というクレーターがあります。このアサダとは、江戸時代の医師で天文学者の麻田剛立です。
 麻田剛立は、当時の最先端の観測機器を用いた詳細な天体観測を行いました。安永7年(1778年)には、輸入されたばかりの反射望遠鏡で月を観察し、その様子を描き残しました。半月に大小11個のクレーターが描かれたその図は、日本で最初に描かれた月面観測図です。
 また麻田は、詳細な天体観測の結果を基に、様々な天体の動きの計算を行いました。特に日食と月食については暦の誤りを何度も指摘しています。江戸幕府には天文方という役職があり、当時は土御門家と賀茂家が暦を作成していました。しかし、世襲制だったせいか、精度の高い暦を作成する能力を持った人がいなかったのでしょう。一方、独学で天文学を極めた麻田のことは、幕府にも聞こえていました。寛政の改革の際、新しい暦の作成に登用された高橋至時(伊能忠敬の師)と間重富は、麻田の門人です。二人は、麻田とともに長年行った観測・研究を基に、「寛政暦」という正確な暦を作り上げたのです。
 さて、江戸時代に市井の人々が楽しんだ中秋の名月を、現代の私たちも楽しみませんか? 今年の中秋の名月は10月4日。満月二日前のほんの少し欠けた月が見られます。実は、中秋の名月=満月ではありません。中秋の名月とは「旧暦8月15日に見られる月」のことで、むしろ満月となることの方が少ないのです。ちなみに、クレーター「アサダ」は望遠鏡で見ることができるそうです。私は見たことがないので、いつか見てみたいと思っています。

 

 

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