『建築探偵の冒険 東京篇』

建築探偵の冒険 東京篇
著者:藤森照信 ちくま文庫
990円(税込)

東京駅の八角大ドーム、兜町のベネチアン・ゴシック邸宅…面白い逸話満載

 日本近代建築史の研究者たちが「東京建築探偵団」をつくり、都内を徘徊し、古い建物、変わった建物を探し、記録する作業を始めた。この本はその探偵団の主唱者による東京の建物にまつわる面白い話の発掘記。
 この本の中では様々な建物が紹介されているが、まず目を引いたのが東京駅にまつわる話。設計は、辰野金吾の設計事務所。辰野が日本最初の設計事務所を開設したばかりで、仕事がとれなかった頃にとれた仕事で、辰野は2階の畳じきの製図室にかけ上がって、〈諸君安心したまえ、中央ステーションの仕事がとれた!これで、月給を払うことができる〉と叫んだというエピソードが紹介されている。著者の藤森氏は、設計図を示し、「華やかで威風堂々の八角大ドームであったが、空襲で炎上した。この設計図に基づいて復原してほしい」と述べているが、東京駅丸の内駅舎保存・復原工事が大詰めを迎え、このほど、その復原されたドームが姿をあらわした。
 また、日本資本主義の父と言われる渋沢栄一が、主としてベニスにまけない国際商業の街をという願いから、兜町の中でもとりわけ水運の十字路に突き出す角地に、中央にベランダ、左右にバルコニーを配する美しいベネチアン・ゴシックの邸宅を建てたことも紹介されている。しかし、この〝兜町をベニスのように〟という夢は、築港計画の失敗によりついえてしまったという。面白い逸話が満載された楽しい本だ。

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