[ちょっと気になる富山人]源氏鶏太(げんじ・けいた)

ちょっと気になる富山人

源氏鶏太
高度成長期時代のベストセラー作家
長編小説だけでも110編
新分野「サラリーマン小説」を開拓

ペンネームの由来
「源氏鶏太のペンネームの由来は、実に簡単である。平家よりも源氏が好きということで、先ず姓が決り、次に鶏という字の感じが好きでこれを活かした。その下に太をつけたのは、サラリーマンの下ッ端であった私は、源平時代の下級武士の中に、そんな名の人物がいたような気がして、これで全部おさまったという訳である。」『わが文壇的自叙伝』より


 源氏鶏太は、大正あるいは昭和一桁生まれのお父さんたちが支持した代表的な作家だそうだが、どうもピンとこない。しかし、富山市生まれ、富山商業高校卒となれば、どんな人だったのか気になるところ。早速、富山市立図書館で検索したところ、数百件がヒット。それもそのはず、長編小説だけでも110編も書いているのだ。何冊か借りてきて読んでみると、なかなかおもしろい。最近のドラマでも扱われていそうなストーリーが続々と登場する。というか、彼がサラリーマン小説という新分野を開拓した訳で、最近のドラマの脚本はそれを真似ているのかもしれないが。
 どんな小説かは、実際に読んでもらうしかないが、絶版になっているものが多く、図書館や古書店でしかお目にかかれないようだ。とはいえ、作品名を眺めているだけでもどんな内容かを想像することはできる。左ページに列挙してみたのでご覧いただきたい。彼の作品は、ユーモア小説で、基本的に勧善懲悪、読んでいて気持ちのよいものが多い、とのこと。また、高度経済成長時代の理想のサラリーマン像が描かれていて、今と比較してみるのもいいかもしれない。
 ちなみに、彼は、直木賞選考委員として、司馬遼太郎氏の「梟の城」の審査にも立ち会っているそうだ。
 給料だけでは足りず生活のために書き始め、応募し続けた小説が世間に認められ、ベストセラー作家となった源氏鶏太。名前は聞いていたけど、いろいろ調べてみて、改めてそのすごさが知らされた。


いたち川の右岸側に立つ文学碑
この碑は富山県立富山商業高校の同期生、柳町・清水町校下自治振興会が発願し、源氏鶏太文学碑建設委員会を組織、多数の人々の協力を得て建立された。昭和62年9月12日(命日)に除幕式が行われた。

碑文の一部
(略)昭和十九年六月海軍に召集 同二十年八月末に帰還したが 富山市は 同年八月の大空襲で殆どが灰燼に帰していた 勿論 私の家のあたりは跡形もなくなっていた 僅かに家の前にあった一本の電柱だけが焼け残っていた もしこの電柱がなかったら 私は 自分の家の所在をたしかめることは不可能であったろう
 その後の市区改正によって私の家跡は道路になっているのだが この電柱だけは 今もそのままである (略)




●主な作品名
愛の重荷、青空ちゃん、青空娘、明日は日曜日、意気に感ず、一騎当千、一所懸命、愛しき哉、歌なきものの歌、うちの社長、浮気の旅、英語屋さん、奥様多忙、億万長者、男と女の世の中、鬼の居ぬ間、女の敵、女の顔、御身、鏡、鏡の中の真珠、課長さん、家庭との戦い、家庭の事情、家内安全、川は流れる、危険な青春、昨日・今日・明日、銀座立志伝、口紅と鏡、結婚の条件、喧嘩太郎、幸福さん、湖畔の人、最高殊勲夫人、爽やかな若者、さんしょ娘、三等重役、七人の敵あり、七人の孫、社員無頼、社長になるために、重役の椅子、女性自身、新サラリーマン読本、新三等重役、人事異動、人生感あり、ずこいきり、青年時代、青年の椅子、青春をわれらに、大安吉日、大願成就、たばこ娘、男性無用、地上七階、艶めいた海、鶴亀先生、停年退職、掌の中の卵、天下泰平、天下をとる、天上大風、天上天下、東京一淋しい男、東京・丸の内、東京物語、堂々たる人生、時計台の文字盤、永遠の眠りに眠らしめよ、流れる雲、夏の終わりの海、二人三脚、二十四歳の憂鬱、人間の椅子、二十歳の設計、万事お金、悲喜交々、火の誘惑、日日哀歓、向日葵娘、夫婦合唱、夫婦の設計、不惑にして惑う、僕と彼女たち、ボタンとハンカチ、坊ちゃん社員、まだ若い、丸ビル乙女、万年太郎、見事な娘、三日三月三年、緑に匂う花、実は熟したり、娘の中の娘、村の代表選手、優雅な欲望、夢を失わず、よい婿どの、夜の太陽、喜びと悲しみがいっぱい、レモン色の月、若い海、私にはかまわないで、若い仲間、わが町の物語、わんぱく行進曲


源氏鶏太 略歴

明治45年 富山市泉町57で生まれる
(本名 田中富雄)
大正8年 富山市立柳町尋常小学校入学
大正11年 学区改正で富山市立清水町小学校へ転校
大正14年 富山県立富山商業高校へ入学
昭和5年 同校卒業
大阪住友合資会社総務部会計課勤務
昭和24年 泉不動産株式会社総務部長
昭和26年 第25回直木賞
昭和31年 退職(勤続25年10ヶ月)
昭和45年 第9回ふるさと賞
(東京富山県人会)
昭和46年 第5回吉川英治文学賞
昭和51年 紫綬褒章
昭和58年 勲三等瑞宝章
昭和60年 9月12日東京で死去

※源氏鶏太の作品は、39年間に、長編小説110編、短編小説80編、随筆・全集など40近くに及んでいる。映画になった作品も数多い。

参考:「源氏鶏太文学碑のしおり」





▲石倉町延命地蔵尊の霊水




▲泉町延命地蔵尊の霊水

 

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