富山誕生物語(ストーリー)を市民の宝として共有しよう!

「川と街づくり国際フォーラム」開催15周年記念
グッドラックとやま2018街づくりキャンペーン

司会/
中村孝一 (月刊グッドラックとやま発行人)(“水の都とやま”推進協議会理事長)

水辺に人を呼び込み、にぎわいを創出し、地域を再生していこう、との水辺利用の機運が高まっている昨今。国の規制緩和が進む中、公共空間が民間に解放されるなど、まさに日本は水辺新時代を迎えている。
そんな中で、2017年5月に設立された「“水の都とやま”推進協議会」。その果たすべき役割について、会員の皆さんと話し合った。

 


 

【出席者】
 今井 均さん(㈱サクセスブランド社長)
 尾山謙二郎さん(マンパワーセキュリティ㈱社長)
 小池正俊さん(読者代表)
 祖川裕美さん(アコースティックユニット「いもけんぴぃ」)
 松井和夫さん(富山観光遊覧船船長)
 安川弘哲さん(㈱グロス社長)

 

中村 「水の都とやま」の理想の姿を求めて、2017年5月に有志の皆さんと「“水の都とやま”推進協議会」を設立しました。古くから「川はそこに住む人の心を映し出す」と言われます。私は富山大空襲の折、生後11カ月で母に背負われ、松川の笹舟に避難していて助かったんです。そのためか松川を美しくしなければ、という気持ちが人一倍強く、松川遊覧船の誕生にも繋がったように思います。

 

多くの人が共有できるストーリーを

尾山 中村理事長は松川で30年間遊覧船事業を継続されていますが、その最初のきっかけは富山市内に県外からのお客さんを連れて行ける観光名所がない、という市民の声だったと伺いました。
 今回、「“水の都とやま”推進協議会」として松川一帯のさらなる魅力アップを考え、提案していく際に最も重要なのは、まずその出発点をしっかりと定めることだと思います。なぜ今、松川を中心とした賑わい作りが必要なのか——。この部分をできるだけ多くの方と共有できるよう明確にした上で、物語を作っていく。もちろん、松川一帯は富山の歴史が詰まった貴重な空間ですので、その場所を活かしていくということは理にかなっていると思います。しかし、この事業には行政、市民の大きな力が不可欠ですので、まず多くの人たちが共有できるストーリーが必要ですね。

中村 確かにその通りですね。30数年前の座談会で、金沢出身で当時の地鉄の緒方社長が、「松川はまるで兼六園の曲水が街の中心を流れているよう。この宝物を生かせるかどうかが、富山の未来を決定するでしょう」とおっしゃったんですね。〝街づくりとは、自分の住む街をしっかり見つめ、そこを魅力ある場所に作り替えること〟なんですね。
 兼六園の曲水とことじ灯籠は、金沢の顔となっていますが、松川も富山のシンボルとなれるのです。そのためには、ハード面の整備はもちろん、ソフト面の管理水準のアップを図ることが大切ですね。市民や観光客から「せっかくいい気分になっているのに、ゴミが流れてくると、興ざめしてしまう」と残念がられます。

 

松川に対する関心を

安川 協議会の設立とともに関わらせていただき、市の方のお話を聞いたり、県外の日本庭園を見に行ったり、私なりに勉強してきて気づいたのは、まず市民に松川に関心を持ってもらうこと。花見の時期はたくさんの人で賑わいますけど、それが終わると寂しくなります。 
 第一に、松川をどのように活用していくかを考え、できることから実行していく。例えば、雪のひどいとき以外は通年運航できるよう工夫して、松川へ行ったら必ず船に乗れるようにする、とか——。やはりそのぐらい船が動いていないと、市民の意識も高まらないでしょうし。私はロータリークラブに入っていますので、その中で何ができるかを考えています。

中村 ありがとうございます。さて、今井さんは、アメリカ・サンアントニオの川を活かした街づくりを実際にご覧になっていますね。

今井 私は、中村さんが理想の水辺都市としていつも挙げておられるサンアントニオ市に、2003年と2015年の2回行ってきました。サンアントニオは徹底的に観光の街づくりをしていて、とにかく楽しい街。カフェテラスはどこも超満員で、世界中の人たちが川の両側を歩いている。何回行っても飽きないし、また行ってみようという気持ちになれるところです。また、歴史をものすごく大事にしているのが印象的でしたね。
 富山の水は全国的に有名で、たくさんの人から富山へ行くと水が美味しいね、と言われます。私も全国いろんなところへ行きましたが、どこへ行っても富山より美味しいところはないですね。ですから、富山で皆が当たり前だと思っているものの中に、宝物や発見があると思うんです。そういった面から松川を改めて考えてみる、見直してみる。そして、全国に発信する、といったことをできるところからやっていくことが大切です。

中村 ありがとうございます。小池さんは創刊時から読者としてグッドラックの取り組みを見守っていただいていますが…。

 

市民の声を盛り上げる

江戸時代、松川といたち川の合流点付近は「木町の浜」と呼ばれ、荷を積んだたくさんの舟が行き交っていた。

小池 まず、市民がこの松川や城址公園を愛する気持ちを持つことが大切です。市民が散歩に行こうとか、誰か来られたら連れて行こう、という気持ちになることが大事かなと。
 富山城を含めこの一帯を案内したり、美化活動をするボランティアさんを組織して、まずその方々にこの場所の歴史的価値や、今後の可能性について知ってもらう。その中で、市民の声が盛り上がれば、行政も動きやすくなります。そのためにも、皆の心を動かすストーリーが必要ですね。
 あと、駐車場の問題。ここへ来られる方には、いくらか割引できるといいですね。
 県民会館が改装され、1階の喫茶店が開放的に開かれましたが、付近の建物を改装される際は、川べりの自然との一体化を意識してもらう。あっちからもこっちからも、松川を眺めることができると、賑わいが増してくるでしょうね。

中村 その通りですね。松井さんは松川遊覧船の船長として、松川の歴史をガイドなさっていますが。

 

松川の歴史を活かす

松井 歴史を振り返ってみますと、神通川の氾濫で、明治期に直線化され、その旧川筋に松川が誕生しました。ちなみに、この廃川地の埋め立てに、富岩運河を掘った土砂が使われました。
 そして、昭和40年代の高度経済成長期、松川は腐敗し、死の川になりました。この死に瀕した川を復活させ、潤いのある水辺を作ろうと、中村理事長が市や県、市民の要請を受けて、松川遊覧船をスタートさせたわけですね。もう30年ということですから、非常に先見の明があったと思います。その延長線上で、今後、どのように松川一帯をグレードアップしていくか、ということだと思います。
 一口いくらと、賛同者から寄付を募ることも必要でしょうね。また、協議会の中に必要に応じて委員会を作ってアイデアを出し合い、一つでも目に見える形で実行に移していけばよいと思います。

中村 やれるところからやっていく、ということですね。祖川さんには、松川べりで開催する「リバーフェスタとやま」に、3年前から出演いただいていますね。

 

松川に親しむ機会を

富山の歴史・文化・伝統のシンボルゾーンとして、松川一帯の果たす役割は大きい。

祖川 私は「リバーフェスタとやま」に参加する中で、松川との関わりが増えてきました。けれど、市民の方は、身近にこんなにいい場所があることに気づかれていないんですね。
 一生懸命磨いて磨いて、こんないい所があるんです、と見せるのも大事ですけど、原石がここにあるんだよ、と皆さんに知ってもらうのも大切です。意識革命というか、ここに宝物があるんだよということに気づいてもらう、そういった機会作りが大切ですね。
 例えば、夏の富山まつり。この近くでよさこいのパレードがあり、たくさんの市民が参加されますが、その時に「川べりに来ると涼しくて気持ちがいいな」とか、「川を見ながら休むと心が和むわ」、といった事を実感していただけたらいいのかなと。
 松川一帯に明治・大正期の建物を復元したらという案もありますが、女性は変身願望があるので、鹿鳴館時代の雰囲気で、ドレスを着たりできるコーナーがあったりすると、その時代に思いを馳せることができて、面白いかなと思います。明治時代には、滝廉太郎さんもこの近くの小学校に通っておられたそうですし…。

尾山 実際のところ、富山の方々は松川に関心のない人がほとんどですから、子どもの頃に、地元の歴史を学ぶ中で、富山の成り立ちと非常に関わりのあるこの一帯に、意識が向くような仕組み作りも必要ですね。

小池 富山の歴史を解説してもらえるから、小学校の遠足では必ず城址公園や松川に行く、ということになれば、子どもの頃から印象づけができますね。

祖川 母から、富山大空襲の時、松川に家具を全部沈め、その横でじっとしていたという話を聞きました。松川には、神通川の歴史だけではなく、戦争にまつわる歴史もあるんですよね。

尾山 松川一帯は様々な要素が詰まった空間ですから、多くの方で共有できる物語をしっかり構築する。その上で、細かな手法についても考えていく、ということが大事だと思います。

中村 市民が自分の街に誇りが持てるよう、「“水の都とやま”推進協議会」が多くの皆さんから賛同いただき、富山ならではの魅力的な水辺空間を創り出す推進力となるべく、今後も議論を進めていきたいと思います。本日は、誠にありがとうございました。

 日常生活のなかで水辺が登場するシーンを増やし、そのことが暮らしに豊かさをもたらす。そんな水辺と都市の良好な関係をさらに強くするには、水辺が変わったと実感できる具体的な「変化」を生み出し、共感をさらに広げるプロセスが欠かせない。

 水辺のアクティビティを豊かにする試み、遊歩道や親水護岸、船着場など水辺と都市との関係を紡ぎ直す都市デザイン、土地利用の転換や再開発にあたっては水辺と一体となった整備を図ること、水辺の賑わいづくりや安全管理などを民間や地域が主役となり展開するエリアマネジメント、そして、市民自らが都市の誇れるアイデンティティとして水辺に愛着を持つシビックプライドの醸成といった一連の取り組みを有機的に実践する必要がある。

『都市を変えるアクションー実践ガイド』
泉英明/嘉名光市/武田重昭編著
学芸出版社 より

 

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