「非日常性」が人を集める

富山城址公園整備懇話会 設立 27周年記念
グッドラックとやま2018街づくりキャンペーン

◆1996年10月号掲載「街づくりキャンペーン」を再編集


 何が「その街を訪れてみたい」と思わせるのか。
 川(運河)の情緒ある雰囲気を生かし、多くの観光客を集める小樽や倉敷。
その「非日常性」にスポットを当て、街の魅力づくりにとって非日常的空間を創造することがいかに重要かを考察してみたい。

 

イラスト/富山の明治・大正期の建築物を復元したリバーショップ、世界の料理店のイメージ。
右:旧・富山市立図書館 大正元年12月に、今の国際会議場あたりに完成。辰野金吾設計。空襲で焼失。
左:県立富山薬学専門学校 明治43年11月に、総曲輪の元日赤病院跡(今の市民プラザのあたり)に新築。

 

運河を生かし、非日常性を演出

 人は日頃の生活を離れ、非日常的な場所に行ってみたくなるものだ。東京ディズニーランドを誘致した堀貞一郎氏は、その著書『人を集める』の中で、「人はハピネス(幸せ)を求めて集まる」と述べた上で、「ハピネスを感じる12の要件」の一つに「日常性から脱却できるもの」を挙げている。
 東京ディズニーランドでは、それぞれのランドごとにディズニーランド特有の施設を集中させることによって非日常性を生み出している。人はその中で食事をとることもできるし、特別な乗り物に乗ったり、珍しいお土産を買うこともでき、楽しいひとときを過ごすことができる。
 観光地として人気の、小樽や倉敷ではどうだろうか。どちらも街の中心部に川(運河)が流れているというだけでも非日常的だが、それに加えて、まず小樽の場合、周辺に集まっている歴史的な建物を上手く活用した見どころを集中的に作り、観光客がその一帯に足を踏み入れると、小樽が運河を中心として栄えた時代にタイムスリップ(つまり、日常性からの脱却)できるよう配慮している。
 その中でも、特に運河周辺が素晴らしい。運河に沿って石造りの倉庫が建っているのだが、夜になるとそれがライトアップされ、運河の水面に映る。また散策路沿いのガス灯がロマンチックな光を放つ。(平成24(2012)年4月より「小樽運河クルーズ」運行開始)
 この非日常的な雰囲気によって、小樽は観光都市としての人気が高く、平成4(1992)年には、人口約16万人のこの都市への観光客の入り込み数が500万人を突破した。(平成29(2017)年/人口11万8000人、観光客入込数806万1600人)
 小樽運河は大正3年に着工され、大正12年に完成した港湾施設。内堀を掘り込んだものではなく、海岸の沖合を埋め立てて海岸に平行に造られた運河だ。北海道開拓の玄関として華々しく活躍した頃は、港内に停泊した本船と石造倉庫が建ち並ぶ運河の間をハシケ(小舟)が往来し、船荷をさばいていた。ところが、本船が埠頭に接岸して行う接岸荷役が主流になり、ハシケ荷役が急速に衰退していくと共に、運河の存在意義も薄れていった。
 ちょうどその頃、自動車時代を迎えて国道の交通渋滞が問題になっており、「埋め立てか、保存か」の全国的な論争が巻き起こったが、結局一部は埋め立てられることになった。しかし、歴史的遺産は保存されることになり、運河とその周辺は「環境整備計画」によって昭和61(1986)年に、全長1140メートル(散策路は1120メートル)、幅40メートル(南側約半分は20メートル)という現在の形に整備され、運河周辺の景観が一変した。
 さて、先にも述べたように小樽ではこうした石造倉庫と運河以外にも、繁栄時代に運河周辺に建てられた様々な建物を活用し、観光資源として役立てている。例えば、旧大家倉庫、倉庫を利用した北一ガラス3号館、赤れんが造りと石づくりの2棟からなるオルゴール館などだ。
 これらの外観は全て、「運河繁栄時代」というテーマで統一されており、こうした建物が集中してあることで、一帯に非日常性が生まれ、人々はその雰囲気の中で日常生活から離れてショッピングを楽しむことができる。
 しかも、注目すべき点は、歴史的建物だけでは満足していないことだ。昭和63(1988)年にヴェネツィア美術館を開館し、ガラスの街のイメージをアップさせた。さらに平成3(1991)年には、石原裕次郎が3歳から9歳まで過ごした縁で「石原裕次郎記念館」も開館(老朽化により平成27(2015)年8月に閉館)。平成19年には、旧小樽交通記念館に小樽市博物館と小樽市青少年科学技術館の機能を統合し、「小樽市総合博物館」を開館した。

 


▲2012年より始まった小樽運河クルーズ。2015年11月17日、社長、船長、社員が松川遊覧船へ研修に訪れた。

 


▲小樽運河沿いの石造り倉庫の一つは、できたて地ビールのレストランとして利用されている。

 

川べり一帯に異空間を創造

 では次に、倉敷を見てみよう。ここも倉敷川という川に沿って、歴史的建築物の外観を生かした文化施設、茶屋、土産物店などを集中させることによって、川筋一帯を非日常的な空間にしている。入口は皆、川に面している。
 江戸時代、幕府直轄の天領地であった同市は、倉敷川畔を中心に物資の集散地として栄えた。そのため、柳並木が続く川沿いには倉敷民芸館、倉敷考古館といった国の重要伝統的建造物群が連なっているが、それらのいずれの外観も「江戸時代の白壁の土蔵づくり」で統一されている。
 こうした街並みに加えて、我が国最初の西洋近代美術館である大原美術館も魅力に華を添えている。同美術館はギリシャ神殿風の外観をとり、中にはエル・グレコ作「受胎告知」を始め、モネ、マチスなどの世界画壇の巨匠たちの作品が多く収められている。この美術館も、「倉敷固有の文化財」であるが故に、観光客は非日常性を体験することができる。
 こうした倉敷川一帯に集中する倉敷固有の見どころの数々が、倉敷ならではの「異空間」を創造し、これを体験するために多くの観光客が訪れる。(平成28(2016)年の観光客入込み数384万人)
 ところが、この倉敷川畔について、「まるで撮影所のセットのようだ。隣の通りに出たら、普通の街と変わらない」「昔からの倉が残り、確かに情緒もあるが、美しい川が流れているのは250メートルほど。写真に騙された」といった厳しい批判をする人もいるという。
 確かに、川の距離は短く、川幅も約5メートルと狭い。しかし、外観を統一し、見どころを集中させたことによって、その一帯には倉敷固有の非日常性が生まれ、観光客の心を捉えて離さないのだ。

 


▲松川遊覧船を参考に始まった倉敷川の遊覧船。(名古屋の堀川クルーズも、松川遊覧船視察後に運行開始)

 


▲ギリシャ神殿風の外観を取り入れた大原美術館。すっかり倉敷の顔になっている

 

印象深い景観づくりを

 ここで小樽・倉敷に共通する要素をまとめてみよう。
 まず、美しい川(運河)が軸になっていること。川の両岸は石垣風にきれいに整備され、散策路が設けられている。そして、固有の歴史的建造物が川(運河)に沿って建っている。建築物は、情緒的な景観を提供するだけでなく、その中には民芸品もあれば、オルゴール館のような夢のあるお店、また美術館や博物館といった文化施設もある。そして、この非日常的な雰囲気を生み出す最も重要な役割を果たしているのは、観光客の視覚に訴える景観である。
 小樽であれば、石造り倉庫、ルネッサンス様式の建築物、倉敷であれば白壁の土蔵づくりの蔵、柳並木などが非日常的な雰囲気の大部分を形成している。つまり、統一されたテーマで景観を創り出し、その上で景観を見せる工夫が重要なのだ。もちろん優れた景観と共に、地元の人たちのもてなし方が観光客の心をつかむのは、いうまでもない。

 

松川べりを非日常空間に

  観光地として名高い小樽、倉敷の魅力を「非日常性」の面から検証したが、松川河畔をこれらの観点から考察してみよう。街の中心部を美しい川がゆったり蛇行して流れ、散策路も整備されている上に遊覧船も運行しており、非日常的空間を創造しているのは確かだ。 しかし、統一的な景観と様々な楽しい施設という面では、施設や店舗の数も少なく、小樽や倉敷には到底及ばない。今後、統一的なテーマを持った見どころや飲食店などを集中させていくことが、松川河畔の魅力アップにつながるだろう。
 人口減少社会が到来した日本で、地域経済活性化のためにも、欠かせない産業となってきた観光。昨今のインバウンドブームで、富山にも外国人観光客が多く訪れるようになったが、山岳観光が中心で、市内観光についてはほとんど知られていないのが現状だ。
 市内中心部の松川べりに、富山ならではの非日常空間を創り出し、誰もが「行ってみたくなる」富山の名所として、世界に発信することはできないだろうか。

 

 

▼富山の明治・大正期の建築物を復元したイメージ図。富山発祥の地、松川河畔にもこんな歴史的建造物があると面白い。

 


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