神通川直線化120周年・『川と街づくり国際フォーラム』開催20周年記念 サンアントニオ・リバーウォーク 川の街 誕生物語 PART5 リバーウォークの維持管理に工夫を凝らす
2003年9月、神通川直線化100周年を記念し『川と街づくり国際フォーラム』を富山市国際会議場で開催してから、今年で20年。
今月号では、このフォーラムでの米・サンアントニオ公園管理者、リチャード・ハード氏の講演から、リバーウォークを陰で支える設備や仕組み等について解説する。
最新技術とマンパワーでリバーウォークを維持
100年洪水との戦いに、突破口を開いた巨大トンネル
地下トンネルの設計の過程で、市民の意見を聞くための公聴会が開かれました。その中で、「洪水が起きていない平時は、トンネルの雨水を利用して流れの少ない川の水量を補ってはどうか」という意見が出されました。この意見はとても理にかなっており、トンネルにたまった雨水を上流に戻して川に流す再循環システムが設計されました。
日本の大手建設業者・大林組が最先端の技術を用いてトンネル工事を行いましたが、このトンネルの建設は工学的に驚くべきものでした。まず、坑道が地下45メートルまで垂直に掘り下げられ、ボーリングマシーンが組み立てられました。トンネルが通る土地の使用料を、地主に払わなければならないという課題がありましたが、中心部を走る道路の真下にトンネルを通すことで解決しました。
トンネルは、1996年8月に運用が開始されました。トンネルの出入口の施設は公園のように造園されているため、周りの景色にすっかり調和しています。
1998年10月17日早朝、サンアントニオに大洪水の警報が出されました。メキシコ側の太平洋沖から、大量の水蒸気が運ばれてアメリカ中部に大雨をもたらし、地域によっては500ミリ以上の降水量がありました。サンアントニオの年間降水量は約700ミリなので、いかに大雨だったのかがわかります。
この大雨からトンネルが市の中心部を守れるかどうかという最初の大きな試練でしたが、主流の約半分の雨水をバイパスに、残りの半分を地下トンネルに流すことによって、水路の外に水が溢れ出ることはほぼありませんでした。
驚くべきことに、水が引いた時には川岸に泥やゴミが少し残ったくらいで、ほとんど被害はありませんでした。その後、リバーウォークはきれいに掃除され、また歩けるようになりました。トンネルが設計通りにうまく機能したということです。
▼地下トンネル工事の様子。
自然あふれる環境を守り、景観を維持
リバーウォークはサンアントニオ市の公園であり、市の公園レクリエーション局が維持管理にあたっています。リバーウォークには年間700万人以上の来訪者があるため、川を包括的に維持管理するプログラムが必要不可欠です。30人の公園レクリエーション局スタッフが、公園の掃除や景観維持にあたっていますが、その足になっているのがメンテナンスボートです。ボートにあるウォーターポンプによって川の水を汲み上げ、水やりを行っています。
リバーウォークは道路レベルより5メートルほど低いことから、独自の気候を作り出しています。川岸の気温は夏は通常5度から7度低く、冬は5度から7度高くなっており、歩行者に心地よい環境を提供するだけでなく、様々な植物が育つ環境にもなっているのです。レモン、バナナ、パパイヤの果実も見えますが、果物が成熟しても、通行人に摘まれることはめったにありません。このように、リバーウォークは「植物園」としての要素も持っています。
また、リバーウォークにはポンプで汲み上げた川の水を利用した噴水や滝がいくつも存在しています。これらは美的な要素を持つだけでなく、環境への役割も果たしています。川の流れが緩やかな状態が続くと、水中の酸素濃度が低下してしまうため、水を循環させたり、岩にぶつけたりする仕掛けを作ることで酸素濃度を高めているのです。
▼県議・市議サンアントニオ視察団の皆さんと、地下トンネルの出口にて記念撮影。(2003年)
▼川を清掃するメンテナンスボート。
▼ウォーターポンプで川の水を組み上げ、水やりを行うスタッフ。
▼道路レベルより5メートル下に広がるリバーウォーク。
補助的な活動を行う組織を設立
サンアントニオ市が一般税で賄える範囲を超える維持管理や観光客のニーズに対応するため、2000年に「セントロ・サンアントニオ」が設立されました。資金は、地域内の私有地および公有地に対する財産の査定によって集められます。この組織が提供するサービスは補足的なもので、市のサービスに取って代わるものではありません。
この「セントロ・サンアントニオ」では、「アミーゴ」と呼ばれる係員が3種類のサービスを提供しています。「アミーゴ」は、スペイン語で「友達」を意味する言葉です。
「メンテナンス・アミーゴ」は、歩道の補助的な清掃を行います。落書きの消去や、ほうきとちりとりでのゴミ集め、高圧洗浄や草むしりなどが主な仕事です。彼らは市では行き届かない部分のサービスを行い、結果的に中心市街地全体の景観に貢献しています。
「アンバサダー・アミーゴ」は、中心市街地のさまざまな利用者を支援する親善大使としての役割を果たしています。彼らは知名度が高く、コンベンション参加者、観光客、労働者、住民、警察官たちを積極的に支援することができます。また、彼らはサンアントニオの中心市街地一帯の情報をよく熟知しています。
「ストリートスケープ(街並み)・アミーゴ」は、中心市街地のプランターや植物の世話をしています。これらの人々の活動はリバーウォークの質を高め、周辺で働く労働者、住民、訪問者にとっても非常に良い影響を与えています。
▼滝や噴水は環境美化だけではなく、水の中の酸素濃度を高める効果もある。
様々な工夫で川の環境を維持
リバーウォークでは水路のメンテナンスのため、毎年1週間ほど川の水が抜かれます。70年代には何週間も水がなくても苦情は出ませんでしたが、現在は日程が数年前から決められています。
水抜きは通常、新年直後の閑散期に行なわれ、川底に泥がたまる蛇行部の清掃は手作業で行われます。また、直前部のバイパス水路部分にたまった砂利や瓦礫は、大きな機械で取り除かれます。
しかし、サンアントニオでは、この川の水抜きでさえも人が集まるパーティーに活用し、パセオ・デル・リオ協会によって行なわれる「泥まつり」は、閑散期に人を呼ぶためのイベントになっています。「泥のキング」と「泥のクイーン」が1票5セント(約5円)で販売されている投票券で選ばれ、夕方から夜にかけては、〝泥パイダンス〟が踊られます。この祭りは資金調達も兼ねているのです。
水面のゴミはメンテナンスの悩みの種ですが、市ではゴミ拾いのスピードと効率を高めるため、網が付いていて、水面をすくいながら進む専用船を建造しました。網を広げると、ちょうど川幅になっているため、作業を1回で完了できます。公園スタッフは設計者と協力し、この船に発電機や水に酸素を供給するエアレーション機能や、汚染があった場合の汚染除去装置などの機能も追加しました。サンアントニオを休暇で訪れる人にとっては、リバーウォークの水がきれいであることはとても重要なのです。
▼川の水が抜かれた時期に行われる「泥まつり」の様子。
▼水面上のゴミをすくうために開発された専用船。
▼自然あふれる美しい環境を維持するために、様々な工夫が凝らされている。(写真/埴生雅章氏・富山県元土木部長)
アメリカ・テキサス州 サンアントニオ市
公園管理者 リチャード・ハード氏
テキサス大学で植物学学士号取得。テキサスA&M大学で鑑賞園芸学修士号取得。1981年以降、サン・アントニオ市公園・遊園課に勤務。’81年から’98まで、サン・アントニオリバーウォーク、市洪水対策の管理責任をとる河川管理監督官であった。’03年当時、リバーウォーク、植物園などを含む公園全体の維持管理責任をとる公園管理者。