神通川によって産み落とされた、神聖な松川 ふさわしい整備・管理で魅力を高めよう!
「グッドラックとやま」創刊41周年記念座談会
県都中心部のシンボリックな潤い空間である松川。「日本さくら名所100選」の一つであり、多くの観光客が訪れるこの松川の現状と課題について、関係者らとともに話し合った。
司会/中村孝一 (月刊グッドラックとやま発行人)
▲2018年5月15日に松川茶屋のカフェテラスで開催された、全国会議の役員情報交換会の様子。
司会 まず、富山観光遊覧船の中村より、松川の現状について報告いたします。
中村(珠) 今日は、①最低水位期における水深の確保②ゴミ③大雨・増水後の河川遊歩道④除草⑤桜について⑥安全のための改良の必要性、以上6点について、お話ししたいと思います。
まず①ですが、松川は上流の方で農業用水が入っており、かんがい期は比較的水量が多いのですが、田んぼが終わると水位が非常に下がります。その時に、船の推進器(プロペラ等)が河床と接触するという問題があります。支障があれば、土木センターの方に依頼して、浚渫や整地をお願いしていますが、川の構造上、常にヘドロや土砂が堆積する箇所が数カ所あり、根本的には解決できておりません。安全運航を継続するためには、非常に重要な課題です。
②のゴミの問題も、流れて来たゴミが浅瀬に引っかかり、雪だるま式に増えていくということがあります。また、水がきれいな時、川底に沈む空き缶などがよく見えるんですね。現在、富山市の方では4月から11月までは月1回、当社と「松川を美しくする会」でも花見前とゴミが目立つ度にゴミ拾いを行っておりますが、数年前、桜が満開の中、松川に大量のゴミが流れている様子がSNSでアップされたり、いまだに多くのゴミが流れてくるのが現状です。推進器にゴミが絡むと、機関停止等、運航の安全も脅かされます。
次に③ですが、河川内の遊歩道が大雨の時、どうしても水が上がり、水が引いた後にぬかるみのような状態になってしまいます。すると、せっかくの川べりの遊歩道なのに、ちょっと下りて歩いてみようかなということにはならないんですね。県の方では年に数回、洗浄作業を行っていただいているのですが、洗浄した翌日に大雨が降ると、元の木阿弥ということもよくあります。お客様の目に触れる船着き場は、当社で常に洗浄作業を行っておりますが、常に観光客や県民市民が気持ちよく散歩できるスペースになるといいなと思います。
④の除草についてですが、県が斜面、市が斜面の上の遊歩道をそれぞれ管理されており、どちらも年に数回、除草を行っておられます。石垣の護岸の草を刈る際は、刈った草が川に流れないように、業者さんには水際の草を残すよう草刈りの仕方を推奨しておられるそうですが、その草に増水時流れて来たゴミが引っかかって、水が引いてもゴミが残るという問題があります。また、除草の回数が決まっているため、雑草が伸び放題でもそのままになっています。
▲雑草が伸び放題の松川べりをなんとかしたい。
⑤は桜について。松川の中央に向かって桜の枝が伸びて、非常に景観として素晴らしいのですが、遊覧船に引っかかると、ムチのようにしなってお客様の方へ跳ねて危険です。また、毛虫の防除が遅れると、葉がなくなって紅葉を楽しめない。遊歩道に落ちたフンが雨に濡れると、ヘドロが上がったようになってしまうという問題もあります。
最後に⑥安全上の課題です。一つは、高齢者や身体障がい者などに配慮したスロープの設置。船着き場への階段がかなり急で、階段を下りることができないとの声をよく聞きます。もうひとつは、混雑時にスムーズにお客様を誘導できるよう、船着き場付近の改良です。
松川べり一帯は県都・富山市の〝顔〟ともいえる場所。少しでもより良い空間になればとの思いで、日々遊覧船を運航しております。その中での現状と課題について、お話しさせていただきました。
司会 今井様には県の河川課、土木センター時代と、松川の美化に大変ご尽力いただき、感謝しております。アメリカ・サンアントニオも一緒に視察していただきましたが、松川の現状をお聞きになっていかがでしょうか?
今井 市民の意識が高まって、松川は以前に比べると、かなりきれいになったとは思いますが、まだこんなにゴミが多いんですね。サンアントニオで一番ビックリしたのは、川の中にも遊歩道にもゴミがないこと。不思議に思って朝早くに川に行ってみると、毎日、清掃船が出て掃除をしている。管理者による管理が、とても行き届いているんですよ。
司会 岡本さんもサンアントニオへ行かれたことがあるそうですね。
岡本 はい。プライベートで1回、商工会議所の視察旅行で1回と、計2回行ってきましたが、とても素敵な街でした。
朝は緑がキラキラしていて、お昼はランチ、夜はお酒とそれぞれ楽しめるんですね。川の感じが松川と似ているので、どうしても比べてしまうのですが、松川茶屋の段々になったテラスや川べりの舞台は、とてもサンアントニオに似ていると思います。
「富山まつり」でこの辺りを使わせていただくことがあるのですが、市に相談に行くと、水道は水道課、他のことについては公園課にと言われ、松川のリバーウォーク(遊歩道)に、サンアントニオのように飲食店がズラッと並ぶのは難しいだろうな、と思いました。
私は大手町で育ち、小さい頃から城址公園や松川が遊び場でしたので、サンアントニオのリバーウォークのようになれば、それは素敵な街になるでしょうね。
▲アメリカ・サンアントニオの川沿いのカフェでくつろぐ人々。
松川は富山市中心部のオアシス
司会 吉田さんは、初めて緑の季節に遊覧船に乗られて、お花見以外の松川の魅力に気づかれたんですよね。
吉田 富山出身でオーストラリア在住の芸術家の知人から、里帰りの際にぜひ松川遊覧船に乗りたいと、リクエストがあったんです。桜の頃の松川はすごく有名なので、facebookなどでもたくさん見ておられ、本当は春に遊覧船に乗られたかったようですが、帰ってくるタイミングがちょうど新緑の頃だったんですね。それで、城址公園を回った後、松川遊覧船に乗ったんですが、船長さんから富山の歴史を教えていただき、とても勉強になりました。小さいお子さんも一緒でしたが、魚が泳いでいるのを見たり、魚にエサをやったり、すごく楽しかったようです。アーティストとしての感性の鋭い彼女自身も、新緑の美しさに目を奪われておられました。私も新緑の頃に乗ったことがなかったので、黄緑や緑の植物の息吹を感じ、その清々しさに驚きましたね。
司会 布目さんは今年の5月、この松川茶屋と階段式テラス、遊覧船を使った全国会議(コンベンション)の役員会をコーディネートされましたが…。
布目 国内と海外から約1200名の方が参加される全国大会が、5月16日から3日間、県民会館で行われたんです。その前日に、役員の方が約80名が参加する交流会を、こちらで開催させていただきました。今、この業界では、ユニークベニューと言って、変わった所でパーティーをしたり、会議をしたりというのが増えているんです。環境が変わった方が参加する方も楽しいですし、実際、今回もすごく喜んでいただきました。
今井 それはすごくいいことですね。松川の新緑は本当に素晴らしいですからね。
司会 サンアントニオは国際会議で世界的に人気の高い街ですが、その秘密はアフターコンベンションの充実にあるんですね。松川も、もう少し管理レベルを上げることができれば、もっと多くの方に楽しんでいただけると思います。今日は、今年4月から管理担当に着任された八町さんにお越しいただいています。
八町 今春から富山土木センターで、富山県が管理する富山市の河川を担当しています。初めての河川担当で、すごく力不足な面もあるんですが、富山市管内にある小さい川も含めた100河川ほどの中では、松川は突出した管理レベルでやらせていただいています。
年間、松川だけを管理する業者を設定し、除草については年2回、下の河川内遊歩道の掃除も年3回、高圧洗浄機等で清掃しています。河川の管理費が限られている中で、いかに効果的に除草や清掃を行うか、が課題だと思っています。
〝歴史的価値〟を踏まえた効果的な管理が大切!
今井 実際の所、県では以前より維持管理する物が増えているのに、予算は同じ。予算が増えないとすれば、除草や清掃をするタイミングが大事ですね。
また、〝松川の歴史を認識する〟ことも大事です。県都の真ん中を走っている松川は、もともとは神通川であり、富山城の外濠としても役割があった。蛇行しているため、大雨が降るとすぐに氾濫するので、直線化したんですね。それを馳越線と言っていますが。そこが本流になった後、このあたり一帯は廃川地でススキ野原。そこで、従来の川筋を10数メートル残して、富岩運河を掘った土砂で埋め立て、県庁や市役所、電気ビルを建てたわけです。松川は、そういった〝歴史的遺産〟であることを、まず認識することが重要です。
司会 まさに、〝松川は富山発祥の地〟。パリがセーヌ川から誕生したように、富山も神通川から誕生した。埴生元県土木部長が、「松川は神通川が産み落とした神聖な川、それにふさわしい整備と管理を!」と、おっしゃっておられたのが印象的ですね。
今井 ですから、管理もいたち川の合流点から舟橋のあたり、特に安住橋から桜橋までを重点的に、横の城址公園と一体化して考えるべきですよ。私は旅行先で県都に降り立つと、まずお城に行くんです。お城のすぐそばにある松川は、歴史・文化はもちろん、〝街のシンボル〟です。他の川とは全然違うんですよ。
岡本 護岸の除草とか、桜の木の剪定にしても、ここを単なる河川として考えるのか、それとも〝街のシンボル〟である特別な場所として考えるのか、では、見方が全然違ってきます。管理体制を今のように県と市でやるのか、民間に委託した方が良いのか、検討することも大切ですね。
八町 遊覧船の皆さんには、松川の美化にとても尽力いただいて感謝しています。除草や清掃に関しては、ポイントポイントで提案していただければ、できるだけ対応して、有効に作業をさせていただければと思います。また、水位に関しても、上流にある松川水門で、自動的に水位の上げ下げができるようになっています。理想の水位に近づけるためには、もう少し上流と下流の水位の相関を見て、水門の設定を決めていきたいと思っています。
今井 先日、島根の松江に行って来たんですが、お堀に遊覧船が出ているんですね。でも、そこの水は動いていないので淀んでいて、松川とは全然感じが違うんです。松川では、流れている川で遊覧船に乗れるというのが本当に素晴らしいんですよ。
司会 富山の人は、自分たちの持っている宝物に気づいていないですね。これからも皆さんと一緒に、〝富山のシンボル、松川〟一帯を大切にしていきましょう。本日はありがとうございました。
▲旧塩蔵橋の橋台を利用して作られた松川べりの舞台。ここに神通川が流れていたことを感じさせる重要な場所でもある。