富山独自の日本庭園を!

滝廉太郎生誕140周年記念・街づくりキャンペーン
兼六園管理事務所・下郷所長に聞く
富山独自の日本庭園を!
平成4(1992)年9月号を再編集

 

平成3(1991) 年、弊誌の呼びかけにより、市民有志による「富山城址公園整備懇話会」が発足。翌年の例会では、ゲストに当時の兼六園管理事務所所長の下郷稔氏を迎え、全国的にも知名度の高い兼六園の実状について話を伺いながら、富山城址公園のあり方について考えた。その折の、下郷氏の貴重な講演内容を紹介する。

 


 

 私は兼六園管理事務所に勤務して17年になります。以前から中村さんに城址公園を自然あふれる日本庭園にしたいとの熱烈な思いを聞かされ、議論しているうちに、一度実際に城址公園を見て下さいということになったわけです。

 

城址公園を視察して

 まず、城址公園を視察した感想ですが、富山市内のど真ん中にこれだけの空間があるということは、非常に大変なことだと思うんです。しかし実際には、子どもの遊び場でもなければ公園でもなく、中途半端な存在でもったいないなとつくづく感じました。管理についても、せっかく回遊してお城をめぐるという道があるにもかかわらず、雑草がぼうぼうで足を踏み入れることができないようになっているし、遊び場も中途半端なままで、都心の中心に位置するわりには非常にもったいない使われ方をしているなと率直に感じました。これを上手く利用していけば、大変すばらしい財産になるんではないかと思います。

 

兼六園の実状

 続いて、兼六園の概要を簡単にお話しします。昨年、兼六園に入園されたお客様は314万人、この数字は兼六園の歴史が始まって以来最高の数字です(2017年度は279万9636人)。私どもが類似庭園、別名姉妹庭園と言っています岡山市の後楽園と高松市の栗林公園に関してみれば、後楽園が110万人、栗林公園で120万人の入園者ということですから、兼六園がいかにたくさんのお客様に入園いただいているかという実状がおわかりいただけるかと思います。
 ではなぜそうなのかと考えてみますと、一つは管理が行き届いているということです。お客様から「兼六園の中でタバコを吸ってもいいですか」と聞かれるほど、園内はゴミ一つ落ちていない状況です。数字的には1坪あたり1万6000円、総額5億5000万円の経費を投じて管理を行っています。この数字は、おそらく全国一だと思います。
 2つ目は金沢市が立地条件に優れていること。金沢は加賀百万石として昔の古い街並が残っていたり、市内各所に用水があり豊富な水をたたえながら流れているという城下町の風情と、同時に近代的な街並が同居している。森が多い、豊富な温泉郡を持っていることなども、入園者を増やしている要因だと思います。
 基本的には、日本庭園が持っている人々の憧れや魅力が、たくさんの人々を集める最大の魅力ではないかと思います。毎年、300万人近い入園者を迎えますが、1回きりのお客様だとこれだけの数字を維持できるはずがありません。
 先日、金沢の女子高生が「兼六園のお客さん100人に聞きました」というアンケートを取ったんですが、その項目の一つで「あなたが兼六園に来たのは何回目ですか」という質問があり、平均4回の回答が得られ、最高8回目という方もいたそうです。普通、観光地は一度訪れたらもう満足するものですが、兼六園は何度も訪れたくなる庭なのです。例えば春に来たら、秋の紅葉や冬の雪吊りの光景をと、四季折々の兼六園を楽しみたいという気持ちを起こさせる庭ではないかと、私は思っているんです。それがたくさんの入園者を迎えている理由ではないかと。

 

日本庭園とは何か

 それでは日本庭園とは一体どういうものかと考えてみますと、西洋の庭は幾何学的で人工的に造られた庭のイメージを痛切に感じますが、日本庭園は人類が生活様式の変化に伴い失っていった大自然の美しさや懐かしさを忘れられない人々が、大自然への憧れを造成していったものだと考えます。
 そういった人たちが日本庭園を造る時、まず大きな池を造り、島を置いたり、滝を設けたりして、自然の景色を模し、自分の庭に再現して鑑賞する。続いて、池の中に船を浮かべて魚を釣ったり眺めたり、料理したりという遊びの要素が加味されていくわけです。そうした発展過程があって、今日のような日本庭園が完成されていったのでしょう。
 日本庭園とは、大きく2つの思想に分けられます。第一は浄土庭園といい、死後の世界に願いを込める、極楽浄土を立体的・空間的に再現したもの。京都の浄瑠璃寺庭園がいい例です。もう一つは、中国の古い思想で絶海の孤島の不老長寿の霊薬を飲むといつまでも生きられるという神仙説庭園。絶海に見立てた大きな池、そして島、自己の永遠の繁栄を願い反映させるもので、金閣寺や銀閣寺に代表されます。
 そうした願いを込めながら、自然を模して造成した日本庭園は、当然のことながら自然そのものの借景が各所で行われているのです。
 先日、ロシア大使夫妻が兼六園を来訪され、感想をお聞きした所、「私がもう少し若かったら造園家になっていたでしょう」と感動しながらおっしゃられました。まさに日本庭園というのは、人々に安らぎと喜びを与えてくれるものだと痛感しました。

 

四季折々の変化を映し出す日本庭園

 そういうことも考慮して日本庭園を造る場合に、北陸という土地は大変立地条件に優れているんです。素敵な魅力を醸し出す苔は、湿気の多い日本海側でしか育ちませんし、雪景色というものも人々の心を魅き付けるものです。四季折々の自然の変化を庭の中に再現することができるわけです。そういう立地条件を考えますと、本格的な庭が富山にあってもいいんじゃないかと思いますね。
 今日この城址公園を見せていただいて、これだけの広さがあれば、素晴らしい日本庭園ができるのではないかと思いました。しかし、兼六園の歴史でさえ、最初に手がつけられたのは延宝4(1676)年、今から300年以上も前のこと。それが「宝暦の大火」で一度消失したんですが、15年後に当時の11代藩主が復興させ、12代藩主に引き継がれ、13代藩主が完成させたんです。このように誰かが思い切らなければ、庭づくりというものはできないものです。誰かがいつの時代かに造っておかなければ、後世のものがそれを楽しむことはできないわけです。やはり先見の明がある人が、思い切って作庭に取り組む必要があるんじゃないかと思います。
 ちょうど今、富山では市民と行政の間でそういった気風が高まってきていますから、今がそのチャンスではないかと思います。

 

有料化で庭園を保存

 入園料についてですが、兼六園を良好な庭園に保つための話し合いの場として、兼六園保存懇話会が発足しました。そして、荒れてきた庭園をいかにして守るかとの議論から、有料化しかないとの結論に達したんです。ところが、その有料化に対して、一部の市民から大反対の声が上がり、新聞でも随分取り沙汰されました。マスコミの論調は、一様に自由に入れなくなるという市民サイドに立った有料化反対の立場でしたね。しかし、当時の中西知事は何としても有料化すべきだと決断し、約1年で有料化に踏み切ったわけです。おかげさまで、有料化前と有料化後の兼六園は大違いで、まずお客様のマナーが大変良くなってきました。
 以前、東京都の美濃部元知事が都内の特別名勝と言われる庭園を全て無料にしたところ、数年ですごく荒れ果ててしまい、間違いに気づいてまた有料に戻したというエピソードが残っているんです。その話からも、いかに有料にすることが庭の保存にとって重要なことかということを感じました。ですから行政は、正しいと思うことは、市民やマスコミが反対しても、断固として貫くという姿勢が大切ですね。
 現在、入園料での収入は6億円で、経費の総額は5億5000万円。ですから、兼六園は入園料で全部まかなっているんです。全て数の力です。それだけの入園者に合わせてガイドだけでも100人はいますし、研修会もとことんやるので大変質が高く、制服も決まっています。ガイドたちは本来茶店の職員であり、ガイドをした人はお客様を自分の茶店へ案内して、難しい茶店の経営を助けているようです。1つの茶店で、多い日は1日2000人も扱っている店もあります。だからといって観光地だから、まずくて高いものでは絶対にいけない。質的にも優れたものをと言っています。

 

富山の自然を活かした日本庭園を

 富山の小中学校の生徒たちが旅行を兼ねて兼六園に来られることが多いんですが、その後、私の方へお礼の手紙をくれるんです。若い小中学生たちも日本庭園というものに非常に感動し、「富山にもこんないい所があったらいいのに」と手紙の中に書いています。
 庭には絶対に水が必要ですが、富山には豊富な水がありますし、これを活かした日本庭園が造れたら素晴らしいでしょうね。
 兼六園の名前の由来をご存知ですか。12代藩主が当時幕府の老中を務めていた松平定信氏に命名を依頼し、中国の『洛陽名園記』という書物から引用したという、宏大・幽邃・人力・蒼古・水泉・眺望の同時に兼ねることのできない6つの景色が、同時に兼ね備わっている庭園であるということから命名されたそうです。
 兼六園を歩いていると、大人だけでなく小さい子供たちも皆一様に感動しているんですよ。本当に心強いです。日本庭園は自然に対する憧れを表現したものですから、永遠に人の心をつかみ続けるでしょう。富山に本格的な庭園が誕生する日が楽しみですね。 

 

 

▼雁が夕空に列をなして飛んでいく様をかたどった、兼六園の「雁行橋」。

 

▼兼六園のほぼ中心部に位置する、園内で最も大きな池「霞ヶ池」。

 

▼平成27(2015)年に完成した富山城址公園の日本庭園にある滝。美しい水の流れが潤いを感じさせる。

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