“松川雨水貯留施設完成!環境未来都市への挑戦” 富山市長 森 雅志さん

Special Interview

松川雨水貯留施設完成!環境未来都市への挑戦
富山市長 森 雅志さん

聞き手/月刊グッドラックとやま 発行人
中村 孝一

 さる5月12日、「松川の水質保全」と「浸水被害の軽減」を目的に2012年(平成24年)から整備を進めていた「松川雨水貯留施設」が、6年の歳月をかけ、ついに完成した。(この貯留施設は、大雨の時に雨水を一時的にためることのできる巨大トンネル。地下11メートルにあって、1時間に58ミリの降雨に対応可能である。)
 2011年(平成23年)、国から〝環境未来都市〟に選定された富山市は、世界でもトップレベルの〝環境未来都市〟への挑戦を続けている。〝楽しい〟〝美味しい〟〝お洒落〟をキーワードに街づくりを進める森市長に、今後の展望を聞いた。

 

必要な投資は思い切って行う

中村 松川雨水貯留施設が、ついに完成しましたね。これは、地方都市では最先端の施設ではないでしょうか。

 これまで大雨が降ると、下水管からあふれた水が松川に入り、水質にも影響を及ぼしていたんですね。直近では、2008年(平成20年)の集中豪雨によるグランドプラザの浸水。この状況を踏まえて検討に入ったのですが、ちょうどその頃、国の勧めで今の金利へ借り換えでき、随分返済が楽になりました。市の一般会計の起債、債券も、上下水道局の企業債も年々減ってきて、新たに50億近い起債が可能になり、着工を決断したんです。

中村 素晴らしい決断ですね。富山市にとって、これは歴史的な決断であり、まさに“環境未来都市〟への“挑戦〟です。「偉大な文明の誕生は挑戦と行動から生まれる」、とのJ・F・ケネディの言葉を改めて思い知らされました。

 やるべき投資をしながら借金を減らす。競輪の売り上げが大幅に減り、財源を他で生み出す必要があり、合併特例債も使って12年間やったりと、全体としてタイミングが良かったんです。おかげさまで、56億円を投資して、地下の貯留施設を作ることができました。

 

100年に一度の歴史的大事業

中村 これはまさに100年に一度の大事業ですからね。市長が初出馬される折、一番最初にインタビューさせていただき、すごく大きな夢を持っておられるな、と。期待が叶って、嬉しいですね。

 全体のビジョンは、その頃から抱いていましたね。

中村 夢を持ち続け、実現させる、素晴らしいことですね。

 人口減少と超高齢社会の到来で税収が減り、行政サービスの水準を維持するため、高負担になります。負担感のあるところに人は来ませんから、やはり時間はかかっても、お洒落で地域に活発に投資がされて、若い人から見てもあまり負担感を感じない都市像というものを出していかないといけない。出発点がこれなんですね。

中村 今回の貯留施設の完成によって、“環境未来都市〟が現実味を帯びてきましたね。

 財源を上手く見つけることができ、タイミングもよかった、と。もう一つは富山の市民の意識の高さ。一番町や旅籠町など、随分長い間、地上でも工事をしていましたが、皆さん協力的でした。こういうみんなでやろうという風土、文化、それが富山の良さだと思います。
 市役所前の城址大通りは、戦後の戦災復興で作ったわけですけど、市民が一等地を協力して出している。その時代の先人のことを思うと、それに応える街づくりをしなければならないな、と。

中村 世界中から訪れる観光客からは、城址大通りはパリのシャンゼリゼ通りや、ワシントンの国会議事堂前の通りに似ていると、とても評判が良いですね。

 そのイメージですね。中心部を花で飾ったり、木々をきちんと手入れして、街の価値を高める。地価が上がれば、税も入ってくる。平成24年と平成29年の対比で、固定資産税と都市計画税の総額が9.7%増えました。

中村 すごいですね。

 上がった税収は、中山間地域にも使えますしね。

中村 花をたくさん、主要なところへ飾っておられますけど、これもやはりそういう考えですね?

6年の歳月をかけ、ついに松川雨水貯留施設が完成。直径5〜5.5メートル、全長約1.1キロの巨大な地下トンネルだ。

 

キーワードは〝楽しい〟〝美味しい〟〝お洒落〟

 はい、意識して。塩倉橋の欄干から花を下げていますが、それがお洒落なんです。人を動かす要素は、〝楽しい〟か〝美味しい〟か〝お洒落〟だと思っているので…。〝美味しい〟の中には、お得感もあります。おでかけ定期券を持っていたら、100円でバスに乗れる。お得だから行こうと。私も65才になったから持ってますよ。

中村 あれはいいですよね。

 〝お洒落〟に欠かせないのが花。必ずしも花屋さんでなくても、フラワースタンドみたいなのが随所にあるとか…。

中村 確かに世界一お洒落と言われるパリも、花によって〝花の都〟の雰囲気を醸し出していますね。

 国際会議場の横に自由に演奏できる電子ピアノがおいてありますけど、〝お洒落〟でしょ。ああいうのに刺激されて、自然発生的に誰かがギターを弾いて歌うとか。アルトサックスを吹くとか。そんな街になっていけばいいですね。

中村 〝音楽の都〟と言われるウィーンも、街のあちこちから音楽が聞こえてくるそうですが、富山も自然発生的に誰かが演奏したり、歌ったりすると、〝水と音楽の都〟のイメージが出てきて、とてもロマンチックな街になっていくでしょうね。そうなると温かい街になっていくと思いますし。

 そうなんです。それと、自転車の共同利用システム「アヴィレ」ですが、最近利用者が多いんですよ。富山は雨の日が多いというイメージがありますが、夜間のみ雨が降った日もカウントされているからなんです。このシステムは日本で最初に取り入れており、しかも財源はすべて交付金です。

中村 そうでしたか。毎年、全国から富山を取材に来てもらっていますが、東京や大阪から来た記者たちも、すごく注目してますね。

 今後、電気自動車の普及率が上がれば、街の中に充電するスペースがどんどん増えてきますので、また街が変わると思います。

中村 素晴らしい〝環境未来都市〟になりますね。

 そして、生ゴミはエコタウンでバイオガス化しています。バイオガスで発電もしていますし、隣の会社にガスを送っています。実は、これも全国ではあまりない。なぜかというと、住民の方々の協力があるからです。皆さん、真面目に分けて下さる。

中村 市では、住宅用太陽光発電システムの導入も推進しておられますね。

 私は家ではソーラーと蓄電池、夜間電力だけで暮らしています。井戸水のヒートポンプもやっていますし。もちろん見合いませんが、モデルだと思ってね。時々見に来る人もいますよ。

中村 市長が率先して、〝環境未来都市〟のモデルになっておられますね。

 融雪や凍結防止のためのロードヒーティングシステムも、今後、高齢化対策として市で推進していく予定です。例えば、高齢者世帯の自宅の道路から玄関までのアプローチを、電気やガスで2メートルほど温めて雪を溶かす。冬の間だけ、そこに置くタイプでもいいですよね。これを取り入れる方には、補助金を出していこうと考えています。
 いずれにしても、〝楽しい〟か〝美味しい〟か〝お洒落〟で、もう少し熟度を上げていきたいですね。

城址大通りの歩道に並ぶ、色とりどりのハンギングバスケットと富山城。

 

路面電車の南北接続で街の熟度をアップ

 路面電車の南北接続まで、2年切りましたから。再来年の3月下旬には開通式をしますので…。そのためには富山ライトレールと富山地方鉄道を、繋がった時に運行形態をどうして行くか、運賃をどうするか、それを今年度中にまとめなくてはなりません。運行の事業免許を国にもらう時に、どういう形でやっていくか。来年の9月には自由通路はできますので、イメージしやすくなりますね。

中村 南北一体化がついに実現するわけですね。

 そうですね。今春、国の〝SDGs未来都市〟の公募にも申請しましたし(6月15日選定)、“環境未来都市〟実現に向け、今後もさらに邁進していきたいと思います。

中村 〝環境未来都市・富山〟へ着実に進んでいますね。今日はどうもありがとうございました。

富山市は、松川遊覧船から路面電車が見える街としても知られている。

 

※1 【エコタウン】ある産業から出る全ての廃棄物を新たに他の分野の原料として活用し、あらゆる廃棄物をゼロにすることを目指す『ゼロ・エミッション構想』を基軸に、地域の振興を図りながら環境と調和したまちづくりを推進する事業。「富山市エコタウンプラン」は、平成14年5月に、全国で16番目、北陸では初めて承認された。資源循環施設の拠点となるのが、富山市岩瀬にある「エコタウン産業団地」。
※2 【SDGs未来都市】SDGs(持続可能な開発目標)は2015年の国連サミットで採択された開発目標。「SDGs未来都市」は、国の「環境未来都市」構想のさらなる発展に向け、地方創生にも資する施策として位置付けられている。

 

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