松川の魅力アップで富山のシンボルを創ろう

グッドラックとやま街づくりキャンペーン
– 「グッドラックとやま」平成23(2011)年1月号座談会より –

 昨年からのコロナ禍で、従来の活動が制限される日々が続いている。一日も早い終息と、旅行を楽しめる平穏な日常が待たれる中、富山の桜の名所・松川は、開花まであと1カ月余りとなった。
 今回は、行政担当者を中心に「松川の可能性と夢」を語り合った座談会の模様を再掲載し、未来への1歩につなげていきたい。

 

◇座談会出席者
(役職は2011年の座談会開催当時)
 今井清隆氏(立山カルデラ砂防博物館館長)
 柏島道浩氏(富山県富山土木センター工務第二課長)
 京田憲明氏(富山市農林水産部次長・技術士)
 経澤陽一氏(富山市上下水道局下水道課計画係長)
 二木 勧氏 (富山県土木部河川課改良係長)
 山田 晃氏(富山県富山土木センター工務第二課河川班班長)
 若松 潤氏(富山市観光振興課課長代理)
 ゲスト/ 杉原正矩氏(広島市在住)

◇司会
 中村孝一(グッドラックとやま発行人)


中村 今日は皆さんに松川への夢を大いに語っていただければと思います。初めに、今井さんからサンアントニオ視察報告をお願いいたします。

 

様々な工夫で水辺を活かす

今井 まず、リバーウォークには年間1400万人もの観光客が訪れるということに大変驚きました。その魅力を作り出すために様々な工夫がされているわけですが、①洪水対策として地下トンネルを作り、川の水位を一定に保っている②地表レベルから4.5メートル掘り込み、水と緑のオアシス空間を創出している③周辺にコンベンションセンターやホテル等が集積し、賑わい創出のために音楽会を開いている④早朝に川面の清掃や樹木の維持管理を行っている⑤近くにある歴史的建造物「アラモの砦」と一体化している、といったことが挙げられます。
 サンアントニオの場合、水は濁っていますが、ゴミがないのできれいに感じる。富山は水がきれいで豊富なので、もっとそれを前面に出すべきです。また、横から入ってくる小さな川も滝にしたり、魅力アップの様々な工夫がなされていたのが印象的でした。

中村 松川の「親水のにわ」整備事業を担当された京田さんから、経緯などをお聞かせ下さい。

京田 昭和62年頃、当時の県の公園係長だった埴生元土木部長が市役所に来られ、「松川と城址公園を一体化させる整備をしたいので、図面を描いてみてくれないか」と。私はもともと造園職での採用ですし、とても面白そうな仕事ですので喜んでお引き受けしました。
 河川法では川の堤防を削る、ということは普通ありえないんですが、松川に面した城址公園の土地が高い位置にあり、洪水時は堤防代わりになること、また、上流からの洪水も水門でゼロカットでき、いたち川のバックウォーターで水位が上昇するだけ、という特殊な川ということで許可をいただきました。
 その頃はボーダーレスという言葉が流行っていて、この「親水のにわ」も河川と公園の境目をボーダーレス化して、公園と川を行ったり来たりできたら、という発想でした。おかげさまで完成後、大変評判がよく、私の中でも非常に記憶に残る仕事になっております。
 3、4年前、私が都市再生整備課の課長の折に、埴生さんから再度「松川をもっと魅力アップできないか」とご提案いただき、委員会を立ち上げて検討してきましたが、財政事情も大変厳しい中、なかなか着手できないのが現状です。しかし、できるところから少しずつと考えております。

中村 川のゴミをなくす、川底を浚渫する、デザインを考えて護岸を整備する、この3つを実行するだけでも、松川はかなり美しく魅力アップできると思います。
 42万都市の中心を流れる松川、しかも、川べりにこれだけの桜があって、遊覧船も行き交っている場所は全国にもありませんね。今回、松川のさらなるグレードアップにつながる貯留管が市の方で計画されていますね。

 

 

松川貯留管で水質を向上

経澤 市の上下水道局では、洪水対策、浸水対策として、松川貯留管(※平成30(2018)年5月、事業費約56億円にて完成。)の建設を計画しております。場所は市立図書館の少し手前から南にずっと上がって、平和通りで折れて旧大和の市電のところまでの区間1キロを予定しております。平成24年に着工し、29年度には関連のものも含めて完成予定です。大雨の際もいったん貯留管で受けてから松川に流すということで、水質も大変良くなると思います。

中村 どの程度の規模ですか?

経澤 地盤面より10メートルほど掘ったところに、直径5メートル(外径6メートル)の管がドーンと入る予定です。松川貯留管の容量は2万立方メートル。事業費は50億円程度を考えております。

今井 それにしても、よく建設を踏み切られたと思いますよ。

中村 森市長の「松川を美しくしたい」、との思いが決断させましたね。改井元市長は「松川をセーヌ川のように美しくしたい」と願っておられましたが、富山市の歴史に残る英断だと思います。
 次に松川茶屋横の階段状のテラスですが、サンアントニオをモデルに県の方にご相談して、今のように整備していただきました。このカフェテラスは、川の賑わいづくりモデルケースとして全国に紹介される程、日本初のものです。

柏島 リバー劇場を整備した折に、その向い側も整備できないかと中村さんから要望がありました。「松川の川面が見えるようにしたい」とのことで、コンクリートを削り、崩れないように擁壁を立て、落下防止の手すりをつけたのですが、皆さんに大変好評だということで、嬉しく思っています。
 予算的にも限りのある中ですが、松川を美しくして、人々の賑わう川にするため、これからも努力していきたいと思っています。
 あと、ゴミの問題ですが、県民全体の美化意識を高めていく必要がありますね。水がとてもきれいなのに、ゴミが流れてくるのは本当に残念です。

二木 私は子供の頃、松川の少し上流の磯部に住んでおり、あの一体は遊び場でした。
 今日、初めて松川の遊覧船に乗りましたが、水がきれいでしたね。ゴミがなくなって、水質もさらによくなり、水面からも近い別世界ということになれば、それだけで人が集まるところになる。もっと水辺に近づいてみようという気になり、さらに素晴らしいだろうなと思いました。
 景観的には、所々に防火用水が出ていますが、これをカスケード(※人工的に作った階段状の小さな滝。)のようにデザインすることで美しく見せるとか、夜にライトアップするとか、本来邪魔なものを逆に利用して美しく見せることができれば、もっと楽しくなるのに、と思いながら見ていました。
 川を整備・管理している私たちは、まずは安全にということを考えるので、どうしても治水が第一になるわけですが、皆さんから川を喜んで利用していただけることも、管理者として検討していく必要性を感じました。

若松 22年度、富山市では観光ポスターを4種類作成しましたが、そのうちの1枚が松川の桜並木の中を遊覧船が進んでいくという構図で、松川を街中の重要な観光資源と考えています。
 先ほど、サンアントニオはコンベンションが盛んであるというお話をお聞きしましたが、現在、富山市もコンベンションの誘致に力を入れております。松川の近くには国際会議場や県民会館、ホテルも数多く立地しています。今以上に松川の魅力が高まり、アフターコンベンションで松川遊覧船で観光しようという方が増えていただくと、大変ありがたいですね。

山田 現場で川を整備・管理している立場としては、やはり治水優先になり、環境整備が後回しになっているのが実状です。これからはできることから少しずつ手をかけていきたいと思います。

柏島 整備する上で、川幅を広げたり、護岸を削るとなると、どうしても桜の根っこがネックになってくるんです。


▲平成17(2005)年4月、松川茶屋横に完成したカフェテラスでくつろぐ人々。

 

松川整備は長期展望が大切

京田 現在の松川の一番の魅力といえば、やはり桜並木です。しかし、桜の魅力を超えるような計画を作って、それに向けて県民市民が合意することも大事かと思います。実際、桜もだいぶ老木になってきており、このまま50年、100年持つということはありえません。松川の整備も長期展望で考えていかねばなりませんから、その中で、桜と何をどう置き換えていくか、桜がなくなった時に、何もない川にならないように検討していかねばなりませんね。

中村 1本も桜がないサンアントニオに、1400万人も観光客が来る。それは川を中心に魅力ある街をつくったからなんですね。

京田 住んでいる人も非常に住みごこちが良く、観光客にとっても落ち着く街というのは、長い年月をかけ、お金もかけて作られていますね。松川は、県、市の両方にとって非常に貴重な財産であり、担当部局の垣根を越えて、一緒に何かを創っていくべきと、常々考えています。
 経済優先、利便性優先から脱却して、落ち着いた大人の街、成熟した街の良さを富山に創って、一番になる。こんな素晴らしいところは全国はもちろん、世界にもないというものに松川をしていく、それが今回の「夢を語る」ということかなと思っています。

 

グランドデザインを描き、着実に進める

今井 そのためにも、まずグランドデザインが必要ですね。これに沿って、場当たり的ではなく、その段階でできることを着実にやっていく。今、経済事情が厳しくても、仕組みは必ず変わってきます。そのことを期待しながら、今後進めていくべきですね。

二木 県では、旧知事公館を活用して「ふるさと文学館」(※平成24(2012)年7月に「高志の国文学館」としてオープン。)の整備を進めていますが、入り口がちょうど松川側になります。それに合わせてベンチを使いやすくしたり、植栽を直したり、より四季が感じられるような遊歩道となるよう、整備を行う予定です。

今井 今回の貯留管は、突破口になると思いますよ。これを契機に次はどうするかという動きも出てくるでしょうし…。

中村 官民が一体となって、知恵を絞って前進していきましょう。

京田 「親水のにわ」に小川がありますが、あれは松川の水を循環して流しているだけなんです。それなのに、その水で手を洗っておられるお母さんがいて、びっくりしました(笑)。やり方一つで、水の見え方も全然違ってきますね。

中村 デザインを工夫することが大切です。予算をかけなくても、デザインで価値が何倍にもなるんですね。

今井 グランドデザインをまず議論して、ぜひ、できるところから進めていきましょう。

中村 今日は広島の杉原正矩さんが、松川遊覧船に乗るためにはるばるお越し下さいました。松川の感想をお聞かせ下さい。

杉原 私は平和公園の近くに住んでおりますが、平和公園は2本の川の中州にあります。といっても、松川茶屋の和風レストランのように、川が近くに見えるカフェテラスはありませんし、ここに来てとてもびっくりしました。これからの松川の発展が楽しみです。

中村 広島から杉原さんが特別参加され、今日の座談会も全国区になりましたね(笑)。今日はありがとうございました。

 

▼松川沿いの「親水のにわ」をゆったりと進む、お花見遊覧船。

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