神通川直線化120周年・『川と街づくり国際フォーラム』開催20周年記念 サンアントニオ・リバーウォーク 川の街 誕生物語 PART4 リバーウォークの美しい景観の秘密を探る

 

 2003年9月、神通川直線化100周年を記念し『川と街づくり国際フォーラム』を富山市国際会議場で開催してから、今年で20年。
 今月号では、このフォーラムでの米・サンアントニオ公園管理者、リチャード・ハード氏の講演から、美しい景観を保つリバーウォークの秘密に迫る。

 

開発で重要視された景観デザインの統一

建築基準や条例で景観を守る

 1995年、地表面から川のレベルまで5メートル掘り下げて、レストランや商店の入ったテナントビル「サウスバンク」が建設されました。当時、リバーウォークのレストランのほとんどは地元の経営でしたが、「サウスバンク」の建設を機に、チェーン店の第一号『ハードロック』が進出を決めました。しかし、リバーウォークの歴史やデザイン基準を理解していなかったため、最初の計画書はテーブルスペースが強調され、造園的要素は最小限に抑えられたものでした。そこで、市は『ハードロック』のプロジェクト・デザイナーに植栽を増やすなど、景観に配慮した設計を求めました。
 「サウスバンク」の建設は大成功となり、公道をふさぐ行列と騒音が問題になるほど、多くの観光客が押し寄せるようになりました。そこで、市は行列をつくることと敷地内で72デシベル以上の騒音を出すことを禁止する条例を作り、公園管理者が違反を取り締まることになりました。
 リバーウォークの条例では、店舗の看板についても定められています。1・6メートル四方のものが一つだけ許可されているため、各店舗はそれぞれ工夫を凝らし、ユニークな看板を作っています。 また、既存の建物の増改築や新築の際は、市に任命された15名のメンバーからなる「歴史建築審査委員会」の承認が必要です。

 

▼リバーウォークの自然豊かな景観とマッチした、「サウスバンク」のカフェ。

 

地元の自然や歴史を設計に生かす

 最近の新しいプロジェクトでは、市の中央図書館を国際センターとして再開発し、その地下1階に遊覧船の係留場(マリーナ)を作りました。また、バイパス水路のコンクリート壁を目立たなくするため、歴史的広場「メイン・プラザ」とリバーウォークを遊歩道で結ぶ〝歩道のある公園〟が作られました。この公園は、地元の石と草木をふんだんに使って造園されています。
 リバーウォークの最新の商業施設は、2002年にオープンした「バレンシア・ホテル」です。設計を担当した建築家は、市のスタッフや「歴史建築審査委員会」と協議し、当初の計画よりも建物を後ろに下げ、パティオやバルコニーなどを川に面した場所に配置しました。また、市の歴史保存担当者が以前からその場所にあった古い塔を残し、景観に組み入れるよう提案したことで、非常に情緒のある空間となっています。

 

▼バイパス水路のコンクリートを目立たなくするために作られた、地上とリバーウォークを結ぶ「歩道のある公園」。

 

サンアントニオの恵まれた水源

 テキサス州のエドワーズ高原東端にあるエドワーズ帯水層は、1万2000年以上に渡って文明を育んできた、石灰岩でできた大きな地下洞窟です。何世紀にもわたって人々がこの地方に住み続けることができたのは、この帯水層の豊富な湧き水のおかげでした。今日、エドワーズ帯水層は170万人以上を支える重要な水源であると同時に、サンアントニオ川の水源であり、サンアントニオ市民にとって唯一の飲料水源でもあります。
 エドワーズ帯水層の南部は、世界でも珍しい地下水資源で、東に約300キロメートルも伸びています。この帯水層は、絶滅危惧種を含めた珍しい水棲動植物の唯一の水源でもあり、都市や町、農村地域、農場や牧場などはもちろん、家庭用・農業用・工業用・レクリエーション用の水としても広く利用されています。用途の多様性が、この地域におけるエドワーズ帯水層の重要性を物語っていると言えるでしょう。

 

▼リバーウォーク沿いに建設されたバレンシア・ホテル。川に面してバルコニーやパティオが作られている。

 

帯水層から水を汲み上げ、川の流れを維持

 帯水層の水は、雨が通水性のある石灰岩を通って下の岩盤層へしみ込み、濾過されることによって溜まります。帯水層は市にとって重要な再生可能資源であるため、その水位は新聞にも掲載され、人々の日常会話の話題になることもよくありました。
 しかし、1900年代前半に激しい地殻変動があり、帯水層から水が大量に噴出しました。また長期間の乾燥期には帯水層の水位が低くなり、川の源流にある泉の流れが完全に止まってしまうこともありました。
 そこで、帯水層から水を汲み上げる電動ポンプが設置され、川の流れと水位を人工的に維持するようになりました。また、2001年には、川の流量をさらに増やすために、浄水場から帯水層の源流まで送水管が引き込まれ、安定的な水の供給が可能になりました。

 

▼リバーウォーク内の水位を1メートルに維持するため、下流に設置された洪水コントロール施設。

 

巨大地下トンネルで100年洪水を克服

 リバーウォークの洪水対策として、1927年、上流に貯水ダム(オルモスダム)が建設され、1929年にはバイパス水路が完成しました。さらに、1941年、リバーウォーク内の水量を一定化するため、下流に洪水コントロール施設も設けられました。
 しかし、市はさらにもう一つ、ある課題を抱えていました。この地域では統計的に大洪水が100年周期で起こるというデータがあり、この最悪の大洪水から、どのように中心部を守るかということでした。中心部の川底を掘り下げ、さらに川幅を広げるという従来の治水技術では、橋の架け替えに莫大な費用がかかります。またその方法を使うことは、美しい川の歴史を伝える、リバーウォークの魅力のほとんどを破壊してしまうことを意味していました。
 この解決策として、雨水を地下に流すため、「サンアントニオ川トンネル」が設計されました。大雨でサンアントニオ川の水位が上がると、逆サイフォン原理を使い、毎分約1万キロリットルの雨水を地下45メートル下にある直径7・3メートルのトンネルに流し、中心部南方の安全な場所にある排水口から再び川に戻すのです。この仕組みによって、大雨の時も市の中心部に水が入らなくなり、洪水を回避することができるようになりました。  (つづく)

 

▼サンアントニオ川トンネルの断面図。

 

▼「サンアントニオ川トンネル」(中央)は、1993年に建設が始まり、1997年12月に完成した。トンネルの直径は約7.3m、深さは約45m、距離は約4.8km。
 これに先立ち、1991年にはリバーウォークの西側に「サンペドロ クリークトンネル」(左)も完成している。トンネルの直径は約7.3m、深さは約42m、距離は約1.7km。この2つのトンネルのおかげで、1998年、2002年、2013年、2015年の洪水を回避することができたという。

 

▼様々な知恵を結集し、美しい水辺空間を維持しているサンアントニオのリバーウォーク。

 

 


アメリカ・テキサス州 サンアントニオ市
公園管理者 リチャード・ハード氏

テキサス大学で植物学学士号取得。テキサスA&M大学で鑑賞園芸学修士号取得。1981年以降、サン・アントニオ市公園・遊園課に勤務。’81年から’98まで、サン・アントニオリバーウォーク、市洪水対策の管理責任をとる河川管理監督官であった。’03年当時、リバーウォーク、植物園などを含む公園全体の維持管理責任をとる公園管理者。

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