神通川直線化120周年・『川と街づくり国際フォーラム』開催20周年記念 サンアントニオ・リバーウォーク 川の街 誕生物語 PART6 趣向を凝らして、リバーウォークの楽しさを演出
2003年9月、神通川直線化100周年を記念し『川と街づくり国際フォーラム』を富山市国際会議場で開催してから、今年で20年。
今月号では、このフォーラムでの米・サンアントニオ公園管理者、リチャード・ハード氏の講演から、リバーウォークの楽しさの秘密について解説する。
公園環境と商業施設の調和が成功の鍵
修復工事中も工夫してリバーウォークを楽しむ
大湾曲部の北側にある、歴史的なリバーウォークの川沿いの壁は、過去60年間、洪水と闘ってきました。1940年代には、手作業で泥底を敷き、強度を高めるために、三角形に積み重ねた石灰岩をモルタルで固めるという、当時の優れた技術が用いられました。しかし、引き続き洪水による被害が繰り返され、決壊が何度も起こったため、最終的には水路化計画が持ち上がったのです。
2000年に、1・6キロメートルをコンクリート基礎に変え、壁と歩道を修復するプロジェクトが始まりました。
いつものように提案は議論を巻き起こしました。環境、商業的混乱、ハグマン氏のオリジナルデザインへの配慮など、デザインのあらゆる側面が検討されたのです。この時、コンクリート橋の下の雰囲気を和らげるために、アートでの装飾も加えられました。
工事の期間中、川の全流量は2本の60センチパイプを通して迂回され、これにより下流の湾曲部では、水が通常通り流れるようになりました。分水することでプロジェクトにはコストがかかりましたが、来訪者は中断することなくリバーウォークの観光を楽しむことができたのです。この間、唯一違っていたのは、普段は遊覧船が川を一方通行でぐるりと一周するところを、工事区間を通れないため両方向に通行しなければならないことだけでした。
このプロジェクトでは、道路のレベルから川のレベルまでの壁が新しくなり、駐車場だったところには公園が作られています。新鮮な外観と構造は、次の世紀まで続いていくことでしょう。
遊覧船でリバーウォークの魅力を体感
リバーウォークでは、40隻の遊覧船(定員40名)が運航しています。これらのボートは、民間企業の「リオ・サンアントニオ・クルーズ」が管理しており、1年間で150万人の利用があります。高い水質、排気ガス基準をクリアするため、すべての遊覧船の燃料に圧縮天然ガスが使われています。
この船は約30分間の川下りのほか、定員20名の「ディナークルーズ」(1時間30分)や「コンベンション・シャトルサービス」、特別な「パーティ」や「ツアー」でもチャーターすることができ、あらゆる種類のイベントに対応できます。
人々が移動しやすい仕組みづくり
リバーウォークが直面している最大の課題の一つは混雑です。日によって、特に夜間は歩道をゆっくり歩くことができないほど混むことがあります。
そして、リバーウォークを訪れる多くの観光客を、上の通りに呼び込むことも大きな課題です。そのため、人々の移動がしやすいよう、リバーウォークと上の通りをつなぐ通路がいくつも作られています。また、この通りには安くて便利なトロリーバスが走っており、リバーウォークを訪れる観光客の足となっています。
▼各所に橋や階段、通路などがあり、人々が移動しやすい工夫がされている。
健康・医療に次いで大きい観光産業
テキサス州の州境でとった調査によると、リバーウォークとともに最も観光客の多い観光地が同じくサンアントニオにある「アラモの砦」です。
サンアントニオでは、観光産業は健康・医療産業に次いで大きくなっています。1997年の調査によると、来訪者による直接・間接経済効果は、40億ドル(4、700億円)でした。観光客に起因するサンアントニオの年間税収は、近年では年間8、000万ドル(95億円)と推定されています。この中には、市の売り上げ税(ホテル宿泊費を含む)、固定資産税、通行税が含まれています。また、最近の調査によると、これらの来訪者の消費活動によって78、000人以上の雇用が支えられています。
近年では、経済的、世界的な懸念から、サンアントニオ単体での数字は伸び悩んでいますが、他の都市と比較すれば、かなりうまくいっています。サンアントニオには毎年700万人以上の人々が訪れるため、娯楽施設が誘致され、大きなものとしては、「シーワールド」と「フィエスタ・テキサス」の2つのテーマパークがあります。
▼歴史的な観光名所として、多くの人々が訪れる「アラモの砦」。
川が輝くスペシャルイベントを開催
川ではよく特別なイベントが催されています。最初のリバーパレードが開催されたのは、1901年のことでした。
現在は、クリスマスシーズンと、4月のフィエスタシーズンの1年に2回、大きなリバーパレードが行なわれています。最近では、市のプロバスケットボールチーム「サンアントニオ・スパーズ」が6月にワールドチャンピオンシップをとった時、その勝利を記念してリバーパレードが行なわれました。この時、10万人以上の人がリバーウォークを訪れたそうです。
以前、12月は来訪者が比較的少ない時期でしたが、1975年から、今では恒例になっているライトアップが始まりました。今では12万5000個もの電球が、この1カ月のイベントのために取り付けられます。
▼クリスマスシーズン、リバーウォークでは聖歌隊のキャンドルサービスと水上パレードが行われる。
▼遊覧船でリバーパレードを行う、サンアントニオ・スパーズの選手たち。
リバーウォーク成功の鍵とは
歴史をひもとくと、サンアントニオ川とその周辺に築かれたこの街に対する市民の深い愛情は、19世紀後半から顕著に表れています。そこには、多民族的な習慣、文化、そして街並みを大切にする心があります。
街が成長するにつれ、市の中心部と歴史的地域の発展について、絶えず活発に議論が行なわれてきました。失敗もありましたが、それぞれの妥協の結果、被害は最小限にとどめられてきました。議論が進まず、課題がそのまま残されたこともあります。リバーウォークの開発を通じて、行政、企業、市民グループから、強力なリーダーが次々に現れました。彼らが、長年に渡ってビジョンを示し、エネルギーを傾け、バランスを保ちながら、開発の成功に寄与してきたのです。
サンアントニオ市は、開発計画をリバーウォークの可能性を探る仕組みとして利用してきました。一般的に公共部門は資金や強い権限がない場合、行動を開始するための案を模索することがよくあります。時には10年以上資金が集まらなかったこともありましたが、大体の場合は資金が集まったり、時間が経つにつれて不適切であることが判明した案もありました。このような計画は、プロジェクトをその核となる価値観に忠実なものとして保つ上でも重要だったのです。
1960年代初頭、建築コンサルタントがディズニーランドのようなアトラクションを提案した時には、ただちに却下されました。市民は計画段階から、その可否について積極的に参加し、多大な貢献をしています。
サンアントニオ市はリバーウォークの拡大資金を集めるため、可能な限り、ありとあらゆる方法を用いています。公的資金は川周辺の商業地域の開発を促すべく、民間からの資金集めに効果的に活用されており、洪水対策資金は治水対策のほか、公園のような環境にするためのアメニティ施設の建設にも使用されています。
公園的環境が安らぎを与える
リバーウォークの魅力には、歴史的建造物、地上から5メートル程低い場所、次の角を曲がった先に何があるのかとワクワクさせる曲がりくねった川など、様々な要素があります。
特に、私が過去20年間、リバーウォークに関わってきた経験から言えることは、その商業的成功の鍵の一つは、レストランや店の背景となる公園環境であるということです。高い木々、青々と茂った緑が安らぎを与え、川辺を都市の雑踏から遠ざけてくれるのです。
私のこの講演が、これからの富山の発展に役に立つことを願っています。
▼アーチ型の橋を抜け、ホテル・レストラン・店舗が入ったリバーセンターモールのそばを通る遊覧船。
▼リバーウォークの美しく安らぎのある公園的環境が、商業的な成功にもつながっている。
アメリカ・テキサス州 サンアントニオ市
公園管理者 リチャード・ハード氏
テキサス大学で植物学学士号取得。テキサスA&M大学で鑑賞園芸学修士号取得。1981年以降、サン・アントニオ市公園・遊園課に勤務。’81年から’98まで、サン・アントニオリバーウォーク、市洪水対策の管理責任をとる河川管理監督官であった。’03年当時、リバーウォーク、植物園などを含む公園全体の維持管理責任をとる公園管理者。