・ グッドラックとやま創刊47周年記念 2024街づくりキャンペーン・ 水辺空間(リバーフロント)を活かした街づくりを!
▲松川では、リバーウォーク(川べりの遊歩道)を歩く花見客と遊覧船の乗客が笑顔で手を振り合い、和やかな雰囲気が創り出されている。
月刊グッドラックとやま 創刊47周年記念・2024 街づくりキャンペーン・
水辺空間(リバーフロント)を活かした街づくりを!
文/中村 孝一 (月刊グッドラックとやま発行人)
能登半島地震で被災した松川護岸の復旧工事が進む中、県では富山県庁周辺エリア活性化プロジェクトが進行中だ。NHK跡地を含む県有地を有効活用し、中心部に魅力ある憩いの場を造ろうとの計画だが、松川べりと一体化させることによって、富山ならではのユニークな空間を創出することができるのではないだろうか。弊誌では松川を活かした街づくりを一貫して提案してきたが、今後の動きに期待したい。
古代、4大河川の流域から文 明が誕生したように、川と人間、そして川と都市の結びつきは非常に強い。また、川を克服することは人類の長年の課題であり、多くの知恵と工夫が治水・利水に傾注されてきた。
しかし、一方では水辺の自然破壊が進み、川が潤いや安らぎを失ってしまったことは否めない。
「川を見ればその都市がわかる」と語る三木和郎氏は、著書 『都市と川』(農山漁村文化協会)の中で次のように述べた。
「都市の中の川は、都市の顔である。したがって、死に瀕した都市河川を再生させることは、同時に都市を蘇生させることでもある。言いかえれば、都市河川の水辺としての復権は、 平凡な自然の復権であると同時に、都市の復権でもある。都市河川にホタルをよみがえらせるということは、昔をなつかしむためではなく、都市をよみがえらせることにほかならない」
このような川に対する認識の 変化によって、水辺空間は街づくりにおいて最も注目される存在となり、これまで様々な取り組みが行われてきた。
さらに昨今、各地域の貴重な財産として水辺空間を守り、活かしていこうとの気運も高まりを見せている。そこで今回は、原点に立ち戻り、川の様々な特性を探りながら、改めてその可能性に迫ってみたい。
川と自然
本来、川は自然の宝庫である。水のせせらぎ、水辺の草花、そして多様な生き物たち……。これらは、地域独自の風土となって特有の風景を醸し出す。
また、川は近代化した都市に残るかけがえのない自然空間であり、街の〝潤い〟を映し出す鏡といっても過言ではないだろう。
ここで、日本人の心を表して いるとも言える季語の中から、 川に関するものをあげてみよう。
(春)雪解・雛流し・花見船
(夏)清水・夜釣・船遊び・蛍狩
(秋)灯篭流し・渡り鳥
(冬)雪見・寒釣・水涸るる
人工的につくられた池や噴水 などでは決して感じることので きない情緒を漂わせ、季節の移 ろいとともに流れる川。最も身近でかけがえのない自然が川であると言えるだろう。
川と文化
川の持つ独特の風情は、古来から人間の詩情を揺り動かし、多くの名歌や名作を生み出してきた。
日本でも『万葉集』以来、川を詠んだ歌は多い。
鵜坂河 渡る瀬多み この吾が馬の 足搔きの水に 衣ぬれにけり (大伴家持・万葉集)
五月雨を 集めて早し 最上川 (松尾芭蕉・奥の細道)
一方では、フランスではセーヌ川に思いを託したポリネール の詩が有名だ。
「ミラボー橋の下をセーヌが流れ われらの恋が流れる わた しは思い出す 悩みのあとには 楽しみが来ると……」
また、小説『トム・ソーヤの 冒険』は、アメリカ・ミシシッ ピ川の流れとともに子供たちの 姿を生き生きと描き出した。
このように、川は文学、絵画、音楽など人間の様々な文化的活動のモチーフとなっているが、人々から親しまれない川に文化は生まれない。我々に何かを訴えかける魅力ある川にこそ、素晴らしい文化が生まれるのである。
▼64艘の笹舟を繋いで神通川に架けられていた船橋。その歴史は松川にしっかりと息づいている。
『越中之國富山船橋の真景』 松浦守美 株式会社源 所蔵
川と歴史
ロンドンのテムズ川、パリの セーヌ川、東京の隅田川、大阪の淀川……。大都市はいうまでもなく、ほとんどの街が河川とともに繁栄しており、川べりは歴史的にも由緒ある建物や史跡が多い。 国の町並み保存区にも指定されている倉敷は、重要な交通路として荷舟が行き交った倉敷川が歴史を残す街である。川べりには、どっしりとした土蔵や白壁で囲った塗屋造りの商家が立ち並び、常夜灯が往時を偲ばせる。
また、岐阜県の大垣市は『奥の細道』の旅を終えた松尾芭蕉が舟下りをした街として有名。多くの句碑と芭蕉の像が建つ水門川のほとりに立てば、はるか江戸時代へと思いを馳せることができる。
川と交通
現代のような陸上の交通機関が発達する以前、川は輸送の手段として非常に大きな役割を果たしていた。物資の運搬はもちろんのこと、旅人の足としても使われた川は、人々の暮らしに欠かせないものだったからである。
〝北のベニス〟と言われるブルージュ(ベルギー)は、かつて水運の繁栄によりヨーロッパ北部最大の商業都市であったという。街の中を縦横に走る河川と運河は北海にまで通じ、15世紀には700隻の舟が往来した。
富山県の神通川も例外ではない。現在のいたち川と松川の合流点に「木町の浜」と呼ばれる舟着場があり、魚・塩・薪・酒などを積んだ帆船350隻が行き交った。
また、幕末には北前船も魚肥や昆布、木材を積んで川を上ってきたという。つまり、以前の川と都市は、 舟を通して強く結びついていたと言える。
川と橋
先に述べたブルージュが、フ ランス語で「橋」という意味であることは、川と橋の関わりを考える上で非常に興味深い。橋を架けることは、川とともに生きる先人たちにとって特別の意昧を持っていたのではないだろうか。
パリのセーヌ川は名橋が多いことでも有名だが、現存する最古の橋「ポン・ヌフ」を始め、 「ミラボー橋」、「アレクサンドル三世橋」などは観光名所にもなっている歴史的な橋だ。
また、ロンドンのテムズ川に は、ロンドン・タワーと対岸を結んで架けられたタワー・ブリッジがあり、ゴシック風な2つの塔と、船が通るたびに開かれる跳ね橋は、ロンドン名物として親しまれている。
一方、急流が多く、洪水がたびたび起こる日本では、橋を架ける際も困難を極めた。人々と橋の歴史は、川との闘いの歴史であると言えるかもしれない。しかし、技術の進歩にともない、橋に対する意識も変わってきた。ヨーロッパの橋のように、長い年月を経ても市民の心の拠り所となる橋が今、求められているのかもしれない。
川と遊び
子供たちにとって、最高の遊び場でもある川。素足で川に入った時のひんやりとした水の感触、川底の石や砂の肌ざわりが開放感を与えてくれる。魚をつかまえたり、水辺の生き物を観察したり、笹舟を作って競争させたり……。川では、日常生活を離れた様々な遊びを体験することができる。そして、 川では大人も童心に帰って水遊びを薬しむ。
日本各地の川で、それぞれの特性を活かした川下りが行われているが、遊覧船での舟遊びは風情もたっぷりだ。春は花見、夏は納涼、秋は月見、冬は雪見。四季の移ろいを水辺で味わうことのできる舟遊びは、ゆとりを求める現代にふさわしい遊びと言えるだろう。
▼「まちなか水辺遊び」(主催/グッドラックとやま)では、松川遊覧船で落語を楽しむ「船上落語会」が開催されている。
川と祭り
川で行われる祭りは、人と川とのつながりの深さを示している。そして、川への思い入れが強ければ強いほど、住民と一体になった川祭りが生まれる。
世界的にも有名な水都・ベネチアでは、水都で行われる祭りが非常に多い。個性的な仮装で知られる「カーニバル」を始め、ゴンドラで行う「レガータ・ストリーカ」、 そして疫病僕威の感謝の祭り「レデントーレ」などである。これらの祭りは世界的にも高い評価を受けており、水辺空間の開発を考える上においては、必ず参考にされている。
また、日本では伝統的な祭り として、大阪・堂島川で行われる「天神祭」、信濃川の大花火大会で有名な「長岡まつり」、 色鮮やかな屋台と神輿が加茂川を渡る愛媛県の「西条まつり」 が挙げられる。
街づくりと川
水辺は、誰もが心をわくわく させる不思議な空間である。こ のような川の特性は、新たな祭りやイベントを考える上でも重要になってくるだろう。
以上、川の特性について簡単にまとめてみたが、現在、我々の身近を流れる川には様々な可能性が秘められていることに気づく。 『新・都市開発の時代』の中で、大岡哲氏はウォーターフロントの特性を活かすポイントとして次の4つを挙げている。
①アメニティ性の活用(自然的要素から生ずる非日常性、街に潤いとやすらぎをもたらす開放感を活かす、など)
②活気ある商業性と、文化の香りの利用(小売店舗やレストラン、アミューズメント施設との複合開発、など)
③歴史的遺産の保存と活用
④居住環境としてのメリットを活かす(水辺を活かした新しい都市環境の創造)
そして、「水辺のもつポテンシャルを活かし、水辺空間の創造的再生を図る目的のウォーターフロント都市開発は、いまやもっとも注目されている都市づくりのアイテムであり、また地域開発のコンセプトでもある」と語る。
未来を見据えた、新しい都市空間の創造に欠かせない〝潤い〟と〝やすらぎ〟。街は、水辺空間の特性を活かすことによって、初めて本物となりえるのではないだろうか。なかでも川は、人間と都市に最も近い水辺空間である。川の可能性を最大限に取り入れることによって、独自性の歴史と自然を活かした、ユニークな街づくりが可能になるのではないだろうか。
[参考文献]『都市と川』(三木和郎・農山漁村文化協会)、『新・都市開発の時代』(大岡哲・鹿島出版会)
▼松川の水辺空間を活かし、富山ならではの独自性のある街づくりが期待される。