『はばたけ友情の翼』出版50周年記念企画 グッドラック創刊の礎となった友情物語
『はばたけ友情の翼』出版50周年記念企画
グッドラック創刊の礎となった友情物語
1977年11月、本物の幸せを追求する雑誌として『月刊グッドラックとやま』は創刊されました。そのきっかけとなったのは、弊誌発行人・中村孝一がフィリピンのボクサー、ベン・ビラフロアとの友情の日々を綴った『はばたけ友情の翼』の出版でした。あれから半世紀を迎え、当時の書評や推薦文、そして中学生たちの読書感想文を紹介し、グッドラック創刊の原点に迫ります。
【書評】
快いふれ合い描く
●河野 宰治(元富山県教育長、富山県体育協会専務理事)
どうもプロボクシングが好きになれない。例えば、その激しい打ち合いが陰惨にすぎるし、判定にも明朗さを欠くものが多いからだ。だから、この『はばたけ友情の翼』も副題に「世界J・ライト級チャンピオン、ベン・ビラフロアと共に」とあるので、話題になった富山市体育館での勝敗についての裏話だろうと思って、ページを繰るのにいささか抵抗があったほどだ。ところが、読み始め、読み通し、読み終わって、実は大いに驚いた。
著者は、1944年生まれというから30歳。明治生まれの残り者とも言うべきわたしとは、比べようもない若さである。その若さがこの本の行間によく溢れているが、そのどれにも直截的な爽快さがある。老人にとっては、とても億劫なことを、若さの故にすぐに行動に移し、しかも、それを疑おうとしない朗らかさがあって快い。
そして、それらはいわゆるアカの他人である初対面のフィリピン人に向けて、ひたむきに集注されるわけである。しかも、国際親善などと振りかぶったところはいささかもない。いかにもヒューマンな素直さがいっぱいなのである。これは、著者が熱心なクリスチャンであり、ボーイスカウトの関係者であるからでもあろうが、ほんとうはわれわれは、「人はすべてかくあるべき」ことを教えられていることなのだろう。ひたむきというものは、恐るべき迫力を持つものである。著者は、ひたすら一人の異邦人のために心を砕く。3月10日の初出会い(この初出会いも面白いが)の日から、15日に富山空港で「アロハ、ゴー」と叫んで別れるときまでの短い日々の記述であるが、これがすばらしい。
わたし自身は、あるいは、異邦人とのかかわり合いが多い方かもしれないが、残念なことには、かれらにほんとうに心を砕いてあげたといった安らぎの思い出がほとんどない。ベン・ビラフロアとのかかわり合いに、著者は快い思い出を持っているようである。これは尊いことである。この本の中には、さまざまな微笑ましい美しいエピソードが出ていて実に快い。
人は誰もがグローバルであるべきだろう。ほんとうは異邦人としての扱いはあるべからざるものなのであろう。人は誰もが国境を意識しない、膚の色の差異を考えない、言葉の違いを思い患うべきでないのであろう。しかし、このことはいますぐには望めそうにもない。だから、その日が来るまでわれわれの心根は、この著者が一異邦人に注いだ思いを、まず見習うべきなのであろう。この本は読みやすいし、読後が実に快い。多くの方におすすめしたい。
(1975年6月2日付 北日本新聞)
【推薦の言葉】
●中沖 豊(富山県教育長)
『はばたけ友情の翼』は、若き著者中村孝一君と、フィリピンのボクサー、世界J・ライト級チャンピオン、ベン・ビラフロアとの、国境を越えた美しい心の交流の記録である。
著者の20年にわたるボランティアとしての、ボーイスカウト活動から体得したすばらしい実践力と、真摯な人生観、そして、クリスチャンとしてつちかわれてきた強い信条が、ベン・ビラフロアとの出会いを契機として、この書を結晶させたものであろう。
全編を通して、著者のこの真情が脈々と流れていて、読者を深い思索に浸らせ、強い感銘を覚えさせる。
特に、青少年層に対し、珠玉の作品として推奨したい。
本書が国内はもとより、彼の母国フィリピン、ハワイ、はじめ、世界中で広く愛読されて、この美しい友情の記録が、多くの人々の心に鮮烈に印象づけられていくことを信じてやまない。
●宮沢喜一(外務大臣)
中村孝一様の著書『はばたけ友情の翼』の出版を、心からお祝い申し上げます。
本書が、日本のみならず、フィリピンにおいても広く読まれ、純真なる日本の青年と、フィリピンのスポーツマンとの間に芽生えた友情が、両国国民の心を打ち、日本フィリピン両国間の友好関係をさらに増進せるものとなることを、期待しております。
ここに、中村様がフィリピンとの友好関係増進に果たされた、貴重な御貢献に対し、深甚なる感謝の意を表します。
かさねて、貴著書の出版を祝うとともに、今後のいっそうのご活躍を祈ります。
●坂西志保(評論家)
中村孝一著、「はばたけ友情の翼」を興味深く読みました。
少年時代からスカウトなどに属して、国際的センスを持った著者が、ベン・ビラフロアとの急速な親交を結ぶようになり、その経過を細かく書き綴ったこの本は動きが早く、登場する人物がみな善意にあふれた理解ある人たちで、よくその辺、事情が描き出されています。
中村さんが、家族を動員したり、フィリピンの国旗を奥さんにつくらせる一つのエピソードだけでも、印象に残ります。
特に、若い人たちに読んでもらいたい本です。
【中学生の読書感想文より】
●『はばたけ友情の翼』を読んで
1年 菊本 充
僕は、この『はばたけ友情の翼』を読んで、すごく中村さんという人がうらやましくなりました。なぜならば、ベン・ビラフロアという、真の友人がいるからです。
僕は、この二人の付き合いの中から、〝友情の価値〟をしみじみと感じました。中村さんがベンに示した思いやり、また逆にベンが中村さんに示した思いやり、なんのまじりけもない、純白のようなすごくきれいなものに感じました。というのは、この二人は違う国民、違う人種だということを何一つ意識せず、つきあっているからです。 ボクシングのタイトルマッチが近づき、ベンは動揺しているのに、友人である中村さんに会うときは、笑顔を絶やさず、また、それに気付き、なんとかしてベンの気持ちを和らげようと努力する中村さん。何か、口では言い表せないものを感じました。
また、完全にベンが優位だった試合が、日本人の自国選手の肩を持つというのが出て引き分けに終わってしまい、僕はすごく情けなく思いました。でも、ベンたちにとって、嫌なこの思い出も、きっと中村さんとの友情によって、かき消されたと思います。
最後の別れのとき、手製のフィリピン国旗を贈ったとき、思わず「友情って、すてきだなぁ」、と叫んでしまいました。ベンも、何よりも嬉しい贈りものだと思ったに違いありません。
今まで、何気なく思ってきた〝友情〟というものが、こんなに美しく、強いものであることを初めて知りました。
●『はばたけ友情の翼』を読んで
2年 中川 智子
〝人類はみな兄弟である〟、 口では簡単にいうことのできるこの言葉も、実際にはとても難しいことだと思います。同じ国にいる人同士でさえ差別するくらいなのですから。まして、他の国の人を兄弟と思え、などと言われてもとても無理です。
第一、そんなことを考えてみる人などごくわずかです。それは、私たちが兄弟という意味を深く考えていないからでしょう。兄弟といえば、血のつながりのあるものがすぐ思い浮かびます。私にはその本当の意味はよくわかりませんが、もっと深い意味のあることだと思います。
私も父の職場の関係で、一度、黒人の人に会ったことがあります。私と友人と二人で遊んでいる時でした。まだ小さかった私たちは、普通のおじさんと一緒だと思っていたのです。その人はとても優しい人で、身振り手振りで挨拶をしてくれたり、頭をなぜてくれたりしました。今の私にはとてもできなそうなことを、小さかった私だからこそできたのでしょう。
みんなが、もし子供のころの心のままでいることができたら、世界中の人が仲良くできるような気がします。しかし、子供のころの心でなくても、そうできるようになればいいと思います。
●『はばたけ友情の翼』を読んで
2年 飯野 一志
僕が、この本を読んでとても嬉しかったことがある。それは、この本の作者である中村さんと、ベン・ビラフロアが、たった6日間で、人種を越え、国境を越え、風俗習慣などを越え、まるで兄弟のように親しく仲良く過ごしたということだ。これからの日本という国を支えて行かなくてはいけない僕たちにとって、このことは、とてもうれしいことだ。また、二人の間で交わされた友情が、自分のことのようにうれしく思われた。
作者とビラフロアとの付き合いは、ちょっとした事から始まっていった。作者が、だんだん、ビラフロアの持つ何かに引かれていったのが分かった。作者の温かい友情が、きっとビラフロアには分かったのだろう。そしてそれは、「人類はみな兄弟…」という考えから来たのだろう。
もし自分がビラフロアであったらどうだろうか。自分を応援してくれる人もなく、知った人もいない。話をする相手も限りがあって、その上、初めて見る雪とその寒さ。とても心細く、さみしいだろう。そんな時に、一人でもいいから友達がいたら、どんなに心強く、どんなにうれしいことだろう。知りもしなかった人が、友達になるということほど嬉しい事はないはずだ。それは、人間であれば、誰でも同じ事だろう。こう考えると、作者はビラフロアの心の支えだったのではなかろうか。
試合が引き分けになったのは、ちょっと悔しい。もちろんビラフロアも悔しかったろう。でもビラフロアは文句を言わなかった。作者は、ビラフロアのそんなところが好きになったのだろう。そうでなければ、あんなに一生懸命になって応援するはずがない。
試合の翌日、ビラフロアは帰途についた。その時の様子からは、満足感がうかがえた。ビラフロアも作者の中村さんも、このことは、一生忘れることがないだろう。
作者の「同じ地球に住むわれわれすべては、兄弟として仲良くやっていかなくてはならない」という考えには、大賛成だ。全人類の平和のために、僕も友情の翼で、今、はばたこうと思う。
「はばたけ!友情の翼よ!」
●「はばたけ友情の翼」あらすじ
1974年3月、日本海側初のボクシング世界タイトルマッチが富山で開催されようとしていた。カトリック信者の著者(中村孝一)は、毎週日曜日に家族とミサに通う教会で、試合を控えた、世界J・ライト級チャンピオン、ベン・ビラフロアに出会う。そして、翌日、チャンピオンと一緒に記念撮影をする約束をした著者は、トレーニング場や宿泊先のホテルに彼を訪ね、その敬虔で穏やかな素顔を知り、交流を深めていく。
世界タイトルマッチ当日、チャンピオンを応援するために会場に駆けつけた著者。そしてベン・ビラフロアと日本人挑戦者との15ラウンドに及ぶ戦いの末、意外な判定が下される……。
ベン・ビラフロア
1952年生まれ。フィリピン・ネグロス島出身。1968年デビュー、1972年4月、19歳でアルフレド・マルカノ(ベネズエラ)を判定で破って、世界J・ライト級第15代の王座についた。一度防衛したものの、1973年3月12日、2度目の防衛戦で柴田国明に王座を失った。
しかし、同年10月の再戦では、持ち前の強打で柴田に1ラウンドでKO勝ちし、わずか7カ月でタイトルを奪回。連続5度、通算6度防衛した。サウスポーの典型的なファイターで、野性味たっぷりの〝殺人パンチャー〟として知られる。現在、家族とハワイに在住。 (Wikipediaより)