ブドウ栽培を続け、”愛”に生きた幸福な人生

文/中村孝一

滑川市東福寺地区の観光ブドウ園の早生の収穫が、8月上旬から始まった。按田さん夫妻は、42年間、二人三脚でブドウ栽培の研究を進め、今日のすばらしいブドウをつくり出すことに成功した。だが、二人が収穫した本当の果実は、夫婦の”愛”が生み出した幸福な人生だったのではなかろうか。

 「国の減反政策で、米を作ってはいけないといわれ、途方に暮れていた1973年、住栄作(国会議員)さんから、ブドウ栽培をすすめられましてね。父の反対もあり迷ったのですが、とにかく前に進むしかないと。それがブドウ農園をやるきっかけだったんですよ」
 按田恒昭(87)、みさ子(84)さん夫妻は、42年前、東福寺地区の山の斜面に、はじめてブドウ園を作った時のことを懐かしく振り返る。最盛期には、ブドウ園は11戸にもなった。
 「住さんに長野の会社を紹介してもらって、みんなで視察に行って、栽培方法を勉強しました。ブドウはとても手のかかる果物ですが、こちらが世話をかければ、ちゃんと答えてくれるんですよ」
 昔、呉羽地区に、毎年日本一の賞に輝くブドウ栽培農家があり、按田恒昭さんも模範にしていたそうだが、「後継者が育たなくて、せっかくの技術が伝わらなかった」と残念がる。
 東福寺地区も、ブドウ農家は按田さんの他2軒になってしまった。しかし、ブドウ園の直売所では、按田さん、息子さん夫妻など、家族みんなで歓迎してくれる。
 「バッファローをはじめ、デラウェア、キャンベル、ベニイズ、フジミノリなど、8月の上旬から順次、食べごろになりますので、皆さん家族でいらっして下さい」と、おもてなしの心もいっぱい。
 原稿制作中、確認のため7月21日電話すると、按田恒昭さんが、7月6日、ちょうど87歳の誕生日に病気で亡くなっていたことがわかった。5月19日に入院され、50日足らずだった。昨年の秋、ブドウ園でお会いすると、春に松川の遊覧船に家族で初めて乗って楽しかったこと、その時撮った記念写真など、とても良い想い出になったそう。「桜のトンネルをゆく松川遊覧船は、世界一すばらしかった」、と微笑んでおられたありし日の姿が今も忘れられない。
 「生涯を貫く仕事ができて、幸せ!」と言っていた按田恒昭さん、今年からブドウ園を天国から見守ってくれることに。

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