馳越線工事のきっかけとなった? 富山市議会の治水に関する請願書(明治29年8月11日に提出決定)

 1901(明治34)年〜1903(明治36)にかけて行われた神通川の馳越線(はせこしせん)工事。これにより、幅2m、深さ1・5mの細い水路が作られ、その後の洪水により土砂が削られて幅が広がり、現在のようにまっすぐ流れるようになった。古い川筋は後に主として右岸側を残して埋め立てられ、松川、いたち側下流部がその名残をとどめている。
 さて、この分流案だが、明治24年8月7日に初代富山市長の前田則邦(のりくに/富山藩9代藩主・前田利幹の次男・前田利民の子)氏がオランダ人技師、デ・レーケに面会して提案したのが最初のようだ。デ・レーケは①相当高額になる、②安価に仕上げるには、新河道に低水路を掘削し、残りは掃流力を利用して開削する方法があるが、下流域に土砂が流れ破滅させることになるので採るべきではない、と指摘した。
 その後、明治28年10月28日に、内務省の古市公威(ふるいち・こうい/日本近代工学ならびに土木工学の制度を創った)氏が来富し、神通川取擴工事の調査をしている。その後、臨時富山県会で神通川取擴案が可決され、分流案ではなく、川幅の拡幅が行われることになった。
 ところが、その拡幅工事を行う明治29年の4月、7月に2回、8月と計4回、神通川が氾濫した。
 そのため、明治29年8月11日、富山市議会は、治水に関する請願書を当局者へ提出することに決定した。それが下記である。やや読みにくいが、原文のまま掲載する。この中で、拡幅で十分とは言えない、一歩進めて備え(分水路の開削)をすべきだと述べている。

 

治水の件に付請願

本縣治水の至難なるは敢て今日に始まるにあらず、而も近年に至り益々禍害の程度を崇進し、本年の如きも四月八日以歬の浸害を除き、客月七日以來未だ三旬に出でざるに神通常願寺二大川の慘毒を本市に流すもの旣に四囘の多きに迨び、每時橋梁を失ひ、家屋を破り、甚しきは阿鼻叫喚の聲深夜暴雨の下に相逹するに至れり、而して目下猶ほ老幼床蓐に眠るを得ず、壯丁業務に安ずる能はざるのみならず、且つ彷徨衣食の途なきもの亦た夥きは、明府の親しく視察せらるゝ所なるを以て、更に呶々を俟たずと雖も、唯一朝苟且に付す可からざる急の最も焦眉に廹るものは、前後の畫策に在り、抑々縣下諸川の治、明府賢僚當に大計の定まる所あるべしと雖も、而も伯孝等職責として直接本市に大關係を有せる右二大川に就き疾呼大聲、敢て卑見を左に呈せんとす。
抑々神通川治水の件に關しては、從本市より建議等旣に業に數次に及び、今夏幸に幅員擴張工を起すに至るも、奈何せん、客月二十一二日の如きは本市街開始已來實に未曾有の大禍にして、鼬川東部に激溢して之と勢を合はすありと云ふと雖ども、盡く沈淪して其用を失ひ、源流直ちに街中に經流するにも拘らず、水量將に十七尺に向んとす、卽ち其量の多且つ大なること果して幾何なるやを測るべからず、是に由て之を觀れば當川の水防は獨り幅員の擴張を以て足れりと爲す可からざるや、亦瞭々乎として明なるとす、然らば猶一歩を進めて之が備を爲さゞれば、復た又歬日の大禍を招かんとす、豈に寒心の至ならずや、茲に本市嘗て建議に及びし如く、該川は輓近漸々土砂增嵩して、又西岸を狹薄するにも拘はらず、舊時の排水路は復た跡を留めざるを以て、今や止むなく別に婦負郡鵯島村より百塚村へ貫き、一派の分水路を開鑿して、其勢を排殺するの外應に術なかるべし、是獨り利を本市に私するものならずして、當該郡部に於ても、每時堤岸を破壞し田園を流蕩するの患害なきに至るべし、卽ち所謂一擧兩得の事と相信候。
且又鼬、赤江兩川は爾来屢々本市に暴溢して被害止まらざるの原因は馬瀬口歬等堤防の破壞に依るものなれば、本市に於て如何に之を防禦せんとするも、猶ほ關門を開て賊を守るに齊し、是間接の本市にして直接の虐害を被るものなれば、迅速完全の改修、若くは復舊工事に着手せられ、動もすれば、神通河伯の應援をも爲し、益其慘毒を逞ふする無きに至らしめられんこと䟦望して不止次第候。
尤右二大川改修若くは分水の事業たる固より鉅額の費用を要する儀なるにも拘はらず、斯の如く切望不止所以のものは、田園の荒蕪は勿論工商等諸業者の經營輻輳すべき樞要都市にして每に此慘狀に沈淪する時は、畢竟地方の盛衰得喪に影響する儀と意考せし所以に候得共、唯明府幸に事の本末輕重を籌り、民力の及ぶ能はざる所あれば、宜く大英斷を以て國庫の支辨、若くは國庫の補助を仰ぐ等相當臨機の處置に出でられ、啻に斯民をして舊慣に復するを得せしむる而已ならず、戰後の今日に當り徒に人後に瞠若たるに至る無からしめられよ、以上市會の決議を經、謹で及請願候條、速かに御採納あらんこと切願の至りに不堪候、𥡴首再拜。 
※古い漢字が使われていますが、意味を想像しながらお読み下さい。

参考文献/「富山市史 第二巻」

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