100年の大計 夢の神通回廊プロジェクト 〜富山発祥の地 神通川本流跡を考える〜

このプロセスで大切なことは、マスタープランを作ることです。神通川本流跡をどうするか、基本計画を作ってみんなで対話を始める、そういうきっかけになると思います。
——————リチャード・ハード
(2003川と街づくり国際フォーラム基調講演より)

 

【出席者】
今井 清隆さん 前田建設工業(株)部長
澤合 敏博さん 富山県信用保証協会会長
嶋倉 幸夫さん 林建設工業(株)社長
埴生 雅章さん 富山県土木部次長
〈あいうえお順〉

司会/中村 孝一
グッドラックとやま発行人

 

川の中にレストランやホテルがあるのに驚く

中村 サンアントニオを実際に見られた感想は。

嶋倉 川の中に街があるのに驚きましたね。レストランやホテル、お店が並んで、世界中から沢山の人が集まってきている。大きな木が茂り、森林公園のようでした。

澤合 大変自然豊かな所で、水と緑と人が一体になった素晴らしい所でしたね。

埴生 中村さんから聞いて疑問を抱いて、現場で確認したいと参加したんですが、自然と人工の両方の歴史が積み重なった、魅力溢れる街でした。

今井 なぜこんなに人が集まるのか、という疑問が行ってみてわかったんです。たしかに、洪水対策を完璧にして、川の街を創造したことが一番ですが、それと共に川を美しく保っていることに驚かされたんですね。松川と比べて水は決してきれいじゃない。ところがゴミがない。ゴミがないから水が濁っていても、美しい川だなあ、という印象を受けるんです。掃除する船は隠してあって、早朝、人が起きる前に清掃し、樹木に水をやっている。非常にメンテにお金をかけている。それとアラモの砦。その3つの相乗効果で人が集まっている、と強く感じました。


早朝、人が起きる前に清掃し、樹木に水をやってるんですよ。
今井清隆さん/元県河川課長。元富山土木センター所長


▲洪水時に湾曲部を本流から遮断するため、アーチ型の水門が設けられた。早朝、メンテナンス船が通り過ぎていく。

 

埴生 一番不思議だったのは、河川の区域なのに、どうしてあんなに川の近くにレストランがあったり、ホテルがあったりできるのか。洪水対策をやったのはわかるのですが、日本では考えられない。河川地区に、なぜホテルやレストランを建てられたのか、市の川の管理官に聞いてみたんですね。そしたら「もちろん、洪水を無くしたことが前提ですけど、お店を川べりに建ててはいけない、という理由はないわけです。役所としても、河川区域に建物を許可することで、土地の貸し付け料が入り、リバーウォークの維持管理費に利用できる。市にとってもいいし、レストランの方にもいい、お客さんも喜ぶ。皆にとっていいからそうなっているんです。」と。

中村 最初に川辺りに開店したメキシコ料理店が、洪水でしばしば浸水すると、市民が毎晩食事に行き復活させたそうです。市民もリバーウォークの大切さを認めているんですね。

今井 最近、日本も河川行政の考え方が柔らかくなってきましたね。

 

▼地上から5m下がった囲まれた空間の中で、魅力も一層輝いている。

道路レベルから隔離したパラダイスが広がる

埴生 リバーウォークは非常に造園的な変化に富んでいる。土木・建築・造園がセットになって力を発揮している上に、商業的なものと自然がバランスよくとけあって、なんともいえない魅力になっている。そのため歩いていて飽きない。向こうの本にリバーウォークは「リニア・パラダイス」と書いてありましたが、本当に「線上に繋がった楽園」だと思いました。パラダイスを作り出している秘密は、道路レベルから5メートル程下がっているためなんですね。囲まれた別世界を作り出すことに成功している。リバーウォークの精神は日本の回遊式庭園と似ている……と気づいたんです。


秘密は、道路レベルから5m

下がった囲まれた空間。
埴生雅章さん/都市計画と造園に詳しい。

中村 私も最初に見た時、兼六園よりも美しい、と驚いたものです。

埴生 日本の庭園文化が一番発達したのが江戸時代の回遊式庭園。水辺の飛び石を渡ったり、いろんな橋を渡ったり、次々と景色が展開していく。ですから、日本の回遊式庭園の精神が、リバーウォークの空間の中に見事に実現されている。だから、あそこを歩いていると飽きない。そういう空間体験が楽しい。沢山の人が歩いているのを見るのも楽しいから、人が人を呼んでいるという状況になっている。そこに成功の秘密があると思う。

澤合 リバーウォークは道路レベルから5メートル程下がって、日常の世界から隔離されている。それが一番の魅力であり秘密だと思う。車の騒音も気にならず、大木が茂って静かな環境でしたね。

埴生 先程の「パラダイス」の語源は「囲まれた」という意味ですし、「ガーデン」というのも「囲まれた空間」が元の意味なんですね。リバーウォークは、道路面より5メートル下がっているため、壁で囲まれ、さらに建物のある所は、建物でも囲まれている。


▲道路レベルから5メートル下ったリバーウォークは、囲まれた日本庭園のよう。

 

中村 松川のリバーウォークは2,5メートルしか下がっていないため、「囲まれた空間」になっていない。歩いていても自動車が見えて興ざめしますしね。

嶋倉 松川は遊覧船に乗ったら別世界に入れるね。リバーウォークを歩いている時より、目線が1,5メートル程下がるから、静かな別世界になる。特に橋の下は、建物に囲まれたようになるので、騒音のない静かな世界になるね。船に乗ったらいいわ。船に乗ったら、別世界に入れる。将来、松川の川底を2メートル程下げ、リバーウォークも下げて、切れている橋の下も通れるようにつなげば、歩いていても、そういう静かな魅力的な世界を体験できるようになると思うけど、県もお金ないようだし。今は遊覧船に乗ってもらうしかない。


松川は遊覧船に乗ったら

静かな別世界に入れるね。
嶋倉幸夫さん/元県土木部長。松川べりで育つ。

埴生 しかし、大きな都市のど真ん中の自然の川を生かして、川底を掘り下げ、騒音を遮断して別世界を作るという構想は素晴らしいですね。現代人にとって、騒音のない世界というのは、もうそれだけでパラダイスですからね。

中村 それを求めて南の島に行ったりする人もある。

埴生 その別世界の中に、さらに木や花や橋、建物など上手に配置して、飽きないように作っていますね。

今井 本当に素晴らしいね。時間かけて川の街を作った。

中村 一昨年、リバーフェスタに出席されたリチャード・ハードさんも、松川・いたち川には充分可能性がある、とおっしゃっていた。


▲パセオ・デル・リオ(リバーウォーク)の断面図。道路レベルから、隔離したパラダイスが広がる。渡邊明次著「世界の村おこし・町づくり」より。

 

澤合 完全にリバーウォークに匹敵するものをつくるには、100年の計画を作って、やれるところからやっていく。木が大きくなるには50年、100年かかるわけですから。桜はもう寿命がきているそうですから、まずは木を植える。

中村 これまで、リバーウォークの森林をつくり出している木が何か疑問だったんです。

埴生 沼杉(SWAMP CYPRESS スワンプ・サイプレス)でした。

中村 日本には明治初期に渡来し、庭園や公園に植えられたそうですね。

埴生 沼杉がうっそうとした森林をつくり出し、年代ものから新しいものまで非常に大切にされていました。感心したのは、道路からリバーウォークまでの5メートルを下りる階段。1つ1つが工夫して上手に作ってありましたね。デザインが素晴らしく、楽しい感じで、違和感なく、リバーウォークの狭いところに、スマートにスッと降りているところが上手ですね。

 

▼道路レベルの橋からリバーウォークに下りる階段。右はロバート・ハグマンの事務所だった建物で、現在はレストランの正面になっている。4段になった階段を80㎝上がった所がお店の床になっているが、洪水でしばしば浸水した。

澤合 直線じゃなくって、上手に描いた曲線。手作りの良さ。

埴生 植物の茂り具合もいいね。アーチ形の石橋、これなんか本当に魅力的ですね。これ1つあるだけで決まり!という感じですね。この魅力は飽きないね。これ何百年たっても飽きない。時代が経てば経つ程、値が出てくるものをポイントに据えてやっているもんだから……憎いね。

今井 訪問者を歓迎している街だ、ということが、そうしたデザインにも現れていますね。日本のように川は洪水対策さえやれば終わり、という考えから、川を生かした魅力的な街、楽しい街を創造しよう、という姿勢がはっきり感じられますね。

大プロジェクトの成功は市民の組織づくりから

埴生 洪水対策の後どうするか、というより、街づくりとか観光戦略とか、トータルの都市戦略をどうするか、その中で川をどうするか考える。根本は街づくりの発想が大切ですね。

澤合 川と街づくりを一緒にやらないといけない。この目的で市民が集まっていろんな委員会を作ってやる。事業に人生を捧げるくらいの情熱家を捜してきて……。ハグマンさんみたいな。長期的な計画を作るにしても、別の委員会を作って。市民が中心になって、樹木をどうするか、桜をどうするか、議論する。資金がいるから会費は年間一万円ぐらいかな。もちろん公的な資金も必要。川辺りの道路もどうするのか、議論しないといけない。もう、いろんな意見がでる。そういうときは、また委員会をつくってね。道の委員会、木の委員会、船の委員会。資金の委員会……それをまとめるのは市がやる。市が松川を中心とした街づくりに、どれだけ情熱を注ぐかにかかっている。


市民が集まって委員会を

作って議論することです。
澤合敏博さん/元県出納長。

中村 今重要なこと言われましたね。これだけ大きなプロジェクトを成功させるには、組織をしっかり作ることが大切。今、「夢の神通回廊」協議会の立ち上げを準備中ですが、参加者が現在100人を超えました。

澤合 これやり始めたら、いろんな意見が出てくると思います。リバーウォーク沿いに建物や公園をつくるには、安野屋からいたち川の合流点まで、松川辺りの道路を止め川底を下げるのが一番です。


▲リバーウォークにかかるアーチ型の歩道橋。これ1つあるだけで決まり!

 

嶋倉 私もそれは大賛成です。いまのまま公園やレストランなど建てようとすると、川幅が狭くなってしまう。今の川幅が狭くなったらつまらん。親水の庭のように、もっと広いところもあったり、変化があった方がいいね。川幅は絶対狭めてはいけない。それと、川底を2メートル程下げ、リバーウォークも下げると、確かに別世界ができるんだけど、ずっと壁になってしまうのでは、と思っていたけど、道路を止めてしまって、そこを線上の公園として、レストラン、お店をつくれたら、これは楽しい。まさに「リニア・パラダイス」を創造することができる。

▼この公園は道路レベルより5m低く、高い沼杉に覆われ、騒音から解放されている。

地上から5メートル下がった所に開ける別世界

嶋倉 松川茶屋のカフェテラス、一段下がって川に近づいたらとても良くなったね。もっと下げたらなお良かったのに。川辺りって涼しいから、夏はクーラーがいらない。こんな涼しいところがあれば、街中のオアシスになる。川辺で昼寝でもしておると寿命伸びるね。しかし、車の騒音が気になるね。

今井 ほんと、興ざめしますね。

埴生 私もさっきから、サンアントニオの雰囲気と何が違うのかな?と思っていたんです。最初サンアントニオにいる気分で腰掛けていたんだけど、時間が経つにつれ、だんだんわかってきました。自動車のレベルに目線があるので、車がものすごく気になる。それと、自動車の騒音が気持ちを落ち着かせないでいるんですね。

 

▼高い木々、青々と茂った緑が安らぎを与え、川辺りを都市の雑踏から遠ざけてくれる。

中村 せっかくいい気分になっていても、日常の喧騒に戻ってしまう。ここはまだパラダイスには腰までしか、入っていない。

埴生 いや、もっと下の足首しか入っていない……。

全員 (笑い)

中村 リチャード・ハード氏が言っています。「リバー・ウォークの魅力には、様々な要素があります。歴史を残す建物、中心部を曲がりくねって流れる川、レストランや、お店、ホテルが並んだ河畔の賑わい。しかし、商業的成功について言えることは、リバーウォークが地上から5メートル下がった所にあり、別世界が開けているということ、この囲まれた空間が作り出す庭園環境が、成功の鍵の1つであるということです。高い木々、青々と茂った緑が安らぎを与え、川辺りを都市の雑踏から遠ざけてくれるのです」と。
 神通川によって生まれ、神通川と共に育ってきた富山。富山発祥の地である神通川本流跡をどうするか、皆で対話を始める時がきたようです。


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