アイデアが人を集める! ―魅力ある街をいかに創るか―

・創刊45周年記念企画・ 2022 グッドラック 街づくりを考える

 

 人口減少時代と言われる昨今、街の魅力を創出することは人を集めるための重要な手段となっている。富山県全体のイメージ向上のためにも、県都・富山市の魅力をさらにアップさせていくことが必要ではないだろうか。

 

富山ならではの特色を活かす

 「人を集める」ということは、地方の街にとっては今や死活問題となっている。「人が集まらない」ということは、単に街が活性化しない、お金が落ちない、ということだけではなく、存在感のない街になることであり、そのような街では若者は就業しないため、過疎化が進んでいく。
 有名な街には、人が自然に集まってくる。有名だから人が集まるのか、人が集まるから有名になったのか——。とにかく「人を集める」は街にとって、これから存続できるかを左右する重大問題なのだ。この「人を集める」ためには何が必要なのか、具体例を挙げて探ってみたい。
 自分たちの住む街に「人を集めたい」と考える際、逆にどのような街であれば訪ねてみたいかを考えてみるとわかりやすい。どのような歴史や特色があるのかよくわからない街は、訪れてみようとは思わない。とすると、まず自分が暮らしている地域について知ることが大切だろう。自分の街の特色を知って初めて、よその街との違いが強調でき、差別化もできる。
 富山は川が多い。明治初期にこの川を治めるために石川県から分県し、今の富山県が誕生したという。まさに〝水の都〟なのだ。河川敷に空港がある街など、全国広しといえども富山だけである。
 富山の街の中心部も、神通川を埋め立てて創られており、〝川から誕生した街〟と言っても過言ではない。その名残である松川は、〝神が通って生まれた川〟と言えるだろう。このような歴史と特色を持つ川は、、他県では見出せない。

 

人を集めるポイントは非日常性

 アメリカ・テキサス州のサンアントニオは、人口約160万人(2020年現在)の街だが、松川と同じような歴史と特色を持った川が流れている。この街では、川を大切な資源と認め、長い年月をかけて磨きをかけてきた。
 サンアントニオ川を街のシンボルにできると信じ、その特色を活かした開発に携わった建築家・ハグマンの、未来を見通す目の素晴らしさは、人類の夢は必ず実現できるのだと、私たちを勇気づけてくれる。
 「リバーウォークの理想的な未来の姿は、この地サンアントニオ固有の、歴史的性格に立ち返ることでしょう。即ち、スペイン風、メキシコ風及び、南西地方の美的な特徴や色彩を加えることです。
 私たちのこの小さい川は、変わった店舗、珍しい景色、色彩、乗り物の雰囲気などによって人々を夢の世界に運ぶ舞台なのです」(『サンアントニオ水都物語』ヴァーノン・G・ズンカー著 都市文化社)
 このようなイメージを元に、サンアントニオ川を活かして街を創るための設計図が描かれた。
 一般道路より、ビルにして1階分低いリバーウォークには料理店や劇場などが建ち並び、散歩する人や遊覧船に乗っている人々を、決して飽きさせることはない。これが松川と同じ川幅10メートル、延長約1キロの空間に見事に展開されているのだから驚きである。市街中心部に、テーマパークのような空間を創り出しているのだ。
 この空間は本流の湾曲部にあるため、降雨によって本流の流量が急激に増加した際には、前後の水門を閉鎖し、増水によって浸水しないよう工夫されている。
 また、約1メートルの水位を保って自然の還流を得るため、常に水門によって調整されている。一方、水質保全のために、本流と湾曲部の接続部分にポンプを設置。強制還流を行う他、随所に設けられた噴水などの水のモニュメントには、エアレーションの装置が隠されている。つまり、舞台裏の様々な装置によって、美しい水辺環境が維持されているのだ。
 非日常性を求めて旅に出るのが、観光客だ。ゆえに、非日常を感じられる街に人は集まることになる。人間には、今の環境から抜け出して、一時的に別世界に行ってみたいという願望がある。広大なアメリカにあっても、サンアントニオの街のような水辺と一体になった、潤いのある街は珍しい。
 渡辺明次氏は著書『世界の村おこし・町づくり』(講談社現代新書)の中で、次のように印象を語る。
 「サンアントニオのすべては、もう一つ下がった地下の町のようにその木の下にある。ホテルからエレベーターで地下に降りると、川辺の『パセオ・デル・リオ』に出る。人の賑わいが一度に見えて、不思議の国に迷い込んだような、サンアントニオのもう一つの町が、そこにある。コンベンションに出席する者は、リバーボートに乗って別体験を楽しみながら、遊び心を仕事に演出する。まさにオアシスに心地よく迷い込んだようである」
 「50年前に植えた木は屋根のように大きく繁り、川辺を覆い、この水辺をマイクロクライメントゾーン(小気候)にし、気温が地上より常に2、3度低い。
 ホテルからホテル、ホテルからコンベンションホールへ人を運ぶリバーボートは、時には水上レストランやパーティ会場になる。夜は夕涼みの遊覧船に早変わりする。船は内装を変えれば何にでもなる」
 会議に出席するために訪れた人々を、夢の国へと誘うリバーフロントの魅力。それがコンベンション都市・サンアントニオを支える基盤なのだ。

 

▼「屋根のない美術館」、「北のベニス」と呼ばれる、ベルギーで最も人気の街ブルージュ。水辺には大木が茂り、まるで森の中を流れる川を遊覧船でめぐるという、非日常性が人気を呼んでいる。

 

その街にしかない統一したテーマを

 魅力ある街というのは、街のある一画だけでなく、街全体が一つの雰囲気を持っているものだ。パリやベニス、ブルージュといった街が人気なのも、その街らしさがあるからこそ、と言える。
 少なくとも一つの地域が全体として、あるテーマで統一されていることが大切だ。観光客は、そこの街にしかない旅情を思う存分楽しみたいのだから、外観がバラバラでは興ざめしてしまう。
 ヨーロッパの街は、美観を統一することが当然と考えて規制を実施している。中でもベニスの徹底ぶりは有名である。そうした努力によって、初めてベニスらしさが保存される。日本のように無秩序に変更できたなら、世界観がバラバラになって、誰もベニスへ行きたいと思わなくなるだろう。
 多くの人がベニスに憧れる理由は、水の都のイメージに代表される運河を行き交うゴンドラや、中世からの建物が並び、そこに全く世離れした異空間があるからだ。
 もし運河が埋め立てられ、車が走り、現代的な建物が乱立すれば、たちまち魅力が失われてしまうだろう。
 「日本の観光地は、これまでお寺や庭園など、観光名所のその部分だけに頼り、街全体や地域全体を観光地として演出するという努力をしてこなかった」と、『人を集める』(TBSブリタニカ)の著者・堀貞一郎氏は指摘する。
 「いまはもう、観光バスで名所だけを見てまわるという時代ではない。家族で散策したり、アウトドア・ライフを楽しんだりと、滞在型の旅行をする時代。それだけに、地域ぐるみの開発をして雰囲気づくりをしないと、観光客を集められない」
 セーヌ川を中心に街づくりを進め、「芸術の都」をテーマに、世界のブランドに育ったパリ。運河とゴンドラで全世界に誇る〝水の都〟として、揺るぎない地位を確立したベニス。中世の街並を流れる川に遊覧船を浮かべ、北のベニスとしてのイメージを発信するブルージュ。いずれの街も統一したテーマを掲げ、成功したと言える。

 

▼世界遺産の集まるスポットを効率よく、優雅に巡ることができるセーヌ川の遊覧船。パリ観光の定番として、観光客の人気を集めている。対岸のノートルダム寺院は、まるで松川河畔に建つ富山市庁舎のようであり、セーヌ川の遊覧船と共にパリ市のシンボルとなっている。

 

明確な街のシンボルを作り、PRを

 少年時代を富山で過ごした滝廉太郎を文化の街・富山のシンボルにしようと、現在、滝廉太郎のブロンズ像が富山城址公園・松川茶屋内「滝廉太郎記念館」に設置されている。
 有名な像がある観光スポットと言えば、デンマーク・コペンハーゲンである。アンデルセン童話に題材を得て作った「人魚姫」の像が人気だが、そこを訪ねた人々は「人魚姫」を撮影する際、なるべく対岸が入らないように工夫しているという。対岸の工場や倉庫などが「人魚姫」の像のバックにあり、それらの背景が入ってしまうと、せっかくのロマンチックな場所が台無しになってしまうのだ。
 これについても、先述の堀貞一郎氏は次のように述べる。
 「人間は自分の見たいものしか見ようとしませんから、あたかも人魚姫の像が海岸にあるかのように写します。実際に行ってみると、ただの河っ端で、あの像があるだけで周りには何もありません。もし本当のことをそのまま宣伝したら、誰も人はやって来ないでしょう。(中略)つまり、逆に言いますと、観光地というのは、多かれ少なかれ、そうやって創られているものです。観光地として旅行客が好みそうな演出をして、どんどん情報を流す努力をしなければ、人はそこへ行ってみようとは思わないのです」
 萩や津和野、柳川や潮来など、いずれも富山市と比べるとずっと小さな街である。にもかかわらず、富山市よりも遥かに多くの観光客を集めている。それはこれらの街が自分たちの特色を生かした街づくりを進め、全国に情報を発信しているからである。旅行雑誌にこれらの街は多く紹介されているが、富山市が載っているものは数少ない。
 これでは富山市へ、全国から観光客が行きようがないのである。イメージも湧きようがないし、どこにあるのか知らない人も多い、それが現実なのだ。
 しかし、この現実を前にして悔しい! と心から思うなら、まだ救いようがある。思い切って、富山市の特色を活かした街づくりを進めるべきだろう。これまで参考とすべき街を世界各地から紹介してきたが、これらの街づくりを参考に、富山にしかない街を作り、その情報を全国に向けてどんどん流す。そうした努力を続ければ、必ず全国から、いや世界中から観光客が訪れるようになるに違いない。そのとき初めて、私たちは悔し涙を振り払うことができるだろう。その日まで、決して努力の手を休めてはならないのだ。

 

▼県都・富山市の中心部を流れる松川を、四季折々の風情を感じながら巡る松川遊覧船(2017年)。1987年の創業以来、“水の都”とやまのシンボルとして認知度が高まってきている。富山市のシティフラッグとしても採用され、市民の誇りの高まりにもつながっているようだ。

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