11★星戀(ほしこい)


星戀(ほしこい)
野尻抱影・随筆
山口誓子・俳句 中公文庫

 

中林みぎわ〈Profile〉

◆宮城県生まれ。富山県天文学会会員。平成14年から21年まで富山市天文台勤務。現在は、子育てをしながら富山市科学博物館ボランティアとして活動。好きなものは、星と月、本、石、博物館巡り、お菓子作り、ビートルズ。

 今冬は例年に増して雪が多く降りましたが、各地からいよいよ桜の便りも届き始めました。夜空の星たちも、冬を代表するオリオン座やすばるが西の空に傾き始め、春を代表する北斗七星やしし座が高くに見えています。今回は、このような季節の移ろいを感じるたびに開きたい随想句集を紹介します。
 山口誓子は昭和を代表する俳人で、俳誌「ホトトギス」「馬酔木」などで活躍。水原秋桜子らと共に新興俳句運動を牽引しました。野尻抱影は天文民俗学の第一人者で、小説家・大佛次郎の実兄にあたります。国内外の星座・星名に関する著述が多数あり、生涯にわたり星空の魅力を発信し続けました。特に星の和名をまとめた功績は大きく、冥王星の命名者でもあります。星を愛した二人が、俳句と随想を月毎に交しあいます。山口誓子の俳句は季節ごとに移りゆく星空を楽しんでおり、それだけでも一冊の句集となるほどです。一方、野尻抱影がさまざまな角度から捉えた星にまつわる随想は、星空へのロマンをかき立ててくれます。山口は野尻を「私の星の教師」と仰ぎ、一方、野尻は山口の句に対照する随想を書くことに喜びを見出す。星を架け橋として、お互いがお互いを尊敬しあう様子が読む毎に伝わってきます。なお、この「星戀」の原本は戦後まもなく、今から70年以上前に刊行されました。そのため、文体に慣れるまでは少々読みづらく感じるかもしれません。しかし、読み進めるうちに日本語の美しさや奥深さに引き込まれる一冊でもあります。
 ところで春は、黄砂や花粉などの影響で空がかすみ、晴れていても星が見えにくいことが多い季節です。そんな中、夕方に西の空の低いところで輝く宵の明星・金星が人目を引いています。金星は、地球から一番明るく見える星で、少しくらい空がかすんでいても、街の中でも見ることができます。これから秋にかけて、金星は夕方の西の空でぐんぐん明るさを増していきますので、その変化を楽しんでみるのも面白いですよ。

 

 

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