コンパクトシティの意義 誇るべき活性化の歩み③

宮口侗廸(としみち)

早稲田大学名誉教授

 

 前回のこの欄で、富山県の経済力がいかに高く安定しているか、そしてそのことが、ゆとりある自宅から短時間の車通勤による暮らしを可能にしていることを述べた。しかしその経済力の高さは、残念ながら富山市の都市としての魅力を高めることに直結してこなかった。旧市街に住んでいる人も農村部の兼業農家の人も、車で職場に通い、外延部のスーパーで日常の買い物をする点では、行動パターンにほとんど違いはない。
 20年ほど前に県が行ったパーソントリップ調査では、全ての移動時間で車を使う率が約72%、通勤で車を使う率が約84%という結果が出たが、これは全国的に例のない高い値だった。この調査に筆者もかかわったが、専門家からは、近くにタバコを買いに行く時にも車を使うような生活だという指摘があったほどである。実際に当時の富山市は外延部の宅地化と中心部の空洞化が進行し、全国の県庁所在地の中で、中心市街地の人口密度が最も低い都市になっていた。まさに経済成長の中で都市としての魅力が縮小する皮肉な流れが生じていたのである。
 富山市はこの流れに対し、都市としての魅力を高めるためにコンパクトなまちづくり研究会を設立、そこでの検討を経て、15年ほど前からまちなか居住の推進と公共交通の活性化を強力に進めてきた。旧富山港線の軌道を活用した平成18(2006)年のポートラム開業に始まり、路面電車環状線の新設、市街地中心部での大規模商業施設や高層マンション建設を含む再開発などが進められ、10年間に中心市街地に約1000人の社会増を実現した。これは全国的に稀有な実績といってよい。今年の路面電車の南北接続で一つの節目を迎えたが、この間、市の都市計画審議会長としてこれらの案件の審議に関わることができたことは、筆者にとっても嬉しい日々であった。
 コンパクトなまちづくりの社会的意義は、人と人の出会いが増えることにある。ヨーロッパの中小都市には、今もにぎわう中心市街地を持つものが多い。広場を行き交う人を眺めるカフェと、個性的な小さな店がその主役である。パリの凱旋門からのシャンゼリゼ大通りにしても、表通りにはルイ・ヴィトンなどの高級店が並ぶが、裏通りに入ると、小さなビストロやチーズ屋さんなどが、数年前にはまだまだ健在であった。これは中心市街地にもまだたくさんの人が住んでいることを示している。筆者は、都市の価値は人と人が顔を合わせ、そこから相互刺激や新しい関係が生まれるところにあると唱えてきたが、ヨーロッパの都市ではいつもそれを実感することができる。ただ、ということは、彼らはマスクや社会的距離を最も苦手とする人たちでもある。その意味では今回のコロナの問題は、都市論からしても本当に未曽有の災難と言えよう。

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