まちなか広場グランドプラザの意義 誇るべき活性化の歩み⑤
宮口侗廸(としみち)
早稲田大学名誉教授
この数か月の間に富山駅の高架下に多数の飲食店やコンビニが入り、新幹線開業後の駅舎の体制はほぼ出来上がった。また、総曲輪通り東角の高層マンションの1階も、飲食と食料品の店で埋まった。まだ大きなホテルがいくつか建設中ではあるものの、富山市のコンパクトなまちづくりの到達点がほぼ見えてきたのではないかと思う。
富山ライトレールの開業に始まる路面電車の大掛かりな基盤整備はもちろん大事業で、これを実現した市行政は大いに褒められてよい。しかし筆者はそれに加えて、総曲輪通り再開発でのグランドプラザの設置に、むしろ最大の敬意を表したい。
コンパクトなまちづくりの社会的意義は、人と人の出会いが増えることにある。広場に人が集まるヨーロッパの都市ではそれを実感することができるが、わが国の都市は「商店街あって広場なし」であった。商業が郊外大型店に席巻される中で、わが国の地方都市の中心商店街は例外なくさびれたが、ヨーロッパでは、広場には商店のみならず公的な建物や教会もあり、フリーマーケットも開催され、露天商や旅芸人も立ち寄る。広場が賑わいの拠点になっているのである。
大和デパートの移転を含む総曲輪通りの再開発の際、広場の価値を熟知する市の幹部職員が、今のフェリオの建物によってつぶれる3本の路地(市道すなわち市有地)を真ん中に集めれば広場になるということに気づいた。素晴らしい着想で、商店側に若干のセットバックをしてもらい、雨や雪の多い富山だから屋根もつけようということになった。こうして13年前に強化ガラスの屋根を持つ立派なまちなか広場が出来上がったのである。
ここでは連日のように、何らかの催しが行われている。冬場のスケートリンクも好評である。しかし筆者が特筆したいのは、この広場を盛り上げようとGPネットワークというNPOが生まれたことである。GPはもちろんグランドプラザのことである。富山の人は他人と話す時間が少ないという指摘を前回したが、工業県として堅実な経済力を誇ってきた富山は、NPOの組織率では相当下位に位置し、市民活動が活発な地域とは言えない。
このNPOは、グランドプラザの催しを支援するだけではなく、カジュアルワイン会とまちづくりセミナーという取組みを10年間続けてきた。ワイン会は毎月第2木曜日夜に自由参加で会費を払い、用意されたワインを何種類も飲めるというもので、ボランティアバンドの演奏もある。この7月には120回目がスペースを開けて開催された。セミナーは1〜3月にユニークな講師を会員が見つけ、まちづくりを学ぶ場とする。どちらもすばらしい活動であり、広場の設置が新たな市民活動を生んだことを、ぜひ多くの市民に知って欲しい。ここから全国まちなか広場研究会が生まれ、筆者はその会長を仰せつかっている。
なおその後青森県八戸市は富山に学んで、中心地に屋根とガラスの壁を持つ広場をつくった。富山で活動していた自称広場ニストの山下裕子氏が、八戸を始め各地で広場の設置に大きくかかわっていることを伝え、5回の連載を終えたい。