“水の都・とやま”を壮大な日本の実験劇場に!

– グッドラックとやま創刊43周年記念・街づくりキャンペーン –
“水の都・とやま”を壮大な日本の実験劇場に!
グッドラックとやま 1989(平成元)年1月号「中沖豊氏独占インタビュー」より
インタビュアー/中村 孝一

 10月25日㈰、県知事選挙が行われ、富山県の未来を託す舵取り役が決まった。本年11月で創刊43周年を迎えた弊誌が、最初にインタビューを行った富山県知事は、「三つの日本一」を目指して住みよい県づくりを推進した中沖豊氏。
 富山市が市制100周年を迎えた1989年に行った独占インタビューで、中沖氏は「富山県には日本の特色がすべてあり、これからの日本の進路を占う〝壮大な実験劇場〟である」と述べていた。当時のインタビューを振り返りながら、改めて富山の魅力について考えてみたい。

 

 

松川べりを3つの日本一のシンボルに

中村 知事の掲げておられる3つの日本一構想の中に、一見して富山の目指すものがわかるような集約されたシンボルゾーンの設置を提案したいと思います。
 松川べりと城址公園を花と緑を結集して整備し、来県者が必ず訪れる北陸の名勝とする。さらに「健康の道」を作って、日本一の健康・スポーツ県をめざす県民のシンボルとしたらと思いますが…。

中沖 松川は四季を通じての景観が素晴らしく、さらにそれをグレードアップするために、富山市の方でも彫刻公園や照明、さらに流れを取り入れた親水公園が今春からお目見えすると聞いています。城址公園については、まず富山市の方で計画を検討し、方策を詰めて行く必要があり、県も十分相談に乗っていくつもりです。

中村 弊誌誌上で「水の都・富山」のキャンペーンを展開してきましたが、感想をお聞かせ下さい。

中沖 ご提言の「水の都・富山」は、インパクトのある素晴らしいイメージだとかねがね思っています。環境庁が実施した「全国名水百選」の中に、本県では全国最多の4件が選定されています。
 3000メートル級の山々から流れ落ちる水は水量、水質ともによく、この優れた水環境は全国はもちろん、世界に誇り得るものです。その意味からも、グッドラックのキャンペーンは富山のイメージアップを図る極めて有意義なものと評価しています。
※1989年、富山城址公園の松川沿いに「親水のにわ」が完成した。

 

『荒城の月』は富山城がモチーフ

中村 ところで、不朽の名曲『荒城の月』を作曲した滝廉太郎が少年の頃、富山に約2年間住んでいて、富山城址で遊んだ思い出があの名曲のモチーフになったということを市民があまり知らないんですね。富山と同じように約2年間住んでいた大分県の竹田市では、滝廉太郎は自分たちが育てたんだという誇りを持っています。「文化の街」をうたいながら、富山市民がそうした意識を持たないというのは不思議にさえ思います。

中沖 ご指摘の通りだと思いますね。滝廉太郎が住んでいた小学生の頃、富山城址で遊んだイメージが滝廉太郎の楽想に大きな影響を与え、『荒城の月』が作曲されたんですね。県民はもちろん、県外から来られる方々にも知っていただく必要があります。もっとPRが必要ですね。

中村 そうなんですね。先般、竹田市に行って、観光課長等にお会いしたのですが、「竹田の方も富山と同じ約2年間しか住んでいない、なぜ富山はもっとPRしないのですか」と言われてびっくりしたんです。

中沖 竹田も2年ですか。富山ももっとPRしていくべきですね。竹田の方が有名だから、勘違いしていました。

中村 明治の初め、滝廉太郎のお父さんが書記官(現在の副知事格)として富山に来られ、東京で生まれた廉太郎少年が一緒に連れられてきたわけですね。たまたま廉太郎のお父さんが大分県出身で、丸の内の堺捨マンションの前に建立された少年像は、富山の九州人会の発案で、富山市民はこの計画に参加していないんです。

中沖 そうですか、それはもったいないことです。

中村 富山は文化の街づくりを進める上で、滝廉太郎を一番の象徴として掲げるべきではないでしょうか。『荒城の月』は日本人の魂が込められていると言われるほど、日本を代表する名曲ですからね。

中沖 大賛成です。私も含めて、県民がもっともっと郷土を知ることが大切ですね。

中村 今年の市制100周年を記念して、市民による滝廉太郎の記念像を建立しようと計画を立てているところなんです。

中沖 いいことですね。富山を文化の街にしていくためにも大賛成です。ご協力します。まず富山市などと話を詰めてください。私個人としては、全面的に協力させてもらいますよ。。


▲富山城址公園内の松川茶屋内に設置されている、滝廉太郎像

 

全国タウン誌会議を誘致

中村 ところで、今年の第12回全国タウン誌会議の開催が、富山市に正式に決まったんですよ。

中沖 それはおめでとうございます。全国でもタウン誌というのは、地域の活性化や町おこしの起爆剤として改めてクローズアップされておりますし、中村さんの「グッドラックとやま」も、昭和52年に創刊されて以来、地域の情報誌として、富山にしっかりと根を下ろしておられると思います。お祝いを申し上げたいと思います。全国のタウン誌会議が富山で開かれることは、非常に意義のあることだと思います。ぜひ、富山ならではの全国大会をやってください。観光面での関連もありますから、県もできるだけご協力します。

中村 ありがとうございます。どこも誘致に熱く燃えていまして、先頃開かれた香川大会で久留米市と秋田市と富山市の間で誘致合戦をした結果、富山に決まりました。地域振興、活性化の1つのインパクトになるかと思います。

中沖 「グッドラックとやま」は地域の活性化、生活情報、趣味、生涯教育、そうしたいろんな側面をバックアップする、本当に生活になくてはならない地域の情報誌として、富山の活性化に大きく貢献しておられますね。

中村 ありがとうございます。今年9月の全国大会で大いに富山をPRして、全誌250万部の誌面を有効に活用したいと考えておりますが、富山のイメージを全国にどのように売り込んでいけばよいとお考えですか?

 

日本の特色の全てがある富山県

中沖 富山の魅力、個性をいかに出していくかという点については、非常に難しいんです。というのは、我が富山県には世界的、日本的ないわば富山の〝顔〟となり得る要素がありすぎるからなんです。例えば、立山連峰の〝山〟、魚の宝庫である不思議な海〝富山湾〟、そこへ注ぎ込む水質に優れた水量豊かな〝川〟、平野には持ち家率、広さで全国一を誇る〝住宅〟、近代産業で伝統産業でもある〝薬〟、高等学校への進学率や図書館設置率第1位などが示すハイレベルな〝教育水準〟。加えて積極進取の気質に富む〝勤勉な県民性〟、本州一の植生自然度やチューリップに代表される豊かな〝花と緑〟等、いろんなことが挙げられるんですね。
 それなら、富山の特色ってなんだということになると、他の県のように単に「温泉」「りんご」というわけにいかなくなる。これら全部をひっくるめたものが、富山のキャラクターだと思います。たくさんあることをうまく使いながら、その中から魅力を引き出していかなければと思っています。
 自然ということでは、やはり日本は水の国、富山県は〝水の県〟ですからね。アジア・アフリカでの水不足、ヨーロッパは硬水で質が悪いとなると、良質で豊富な水を持つ日本、とりわけその中でも水に恵まれた富山県は、世界に誇り得るわけです。
 また、日本がここまで発展したのは、教育の功績が大きいと考えます。学校教育に限らず、社会教育を含めた国民全体の教育水準の高さは、日本が世界に誇る最大のものと思います。中でも、富山県は高等学校への進学率、図書館設置率が全国トップといったことに加え、公民館設置率や生涯教育内容の充実などに見られるように、教育熱心で学習意欲の非常に高い県であります。
 このように日本の特色と思われるものが、全て富山にはあるわけですね。そういう意味で、富山県は全国のモデルであり、言わば「日本の実験劇場」とも考えられます。ですから、豊かな自然、高い教育水準、勤勉な県民性などを柱とした、これからの日本の進路を占う〝壮大な実験劇場〟というのが、富山のイメージではないかと思いますね。

中村 〝日本の実験劇場〟というのは新しい着想ですね。

中沖 非常に面白く、ユニークな特色を持つ県ですよ、富山県は。ですから、打ち出し方によってはとても個性的で、魅力的な郷土づくりが可能になるんです。

中村 これから本当の意味での「魅力ある都市」への集中化が強まると考えられますが、人口の増減にも顕著に現れてきているようです。例えば、「杜の都」でイメージアップする宮城県は、減少傾向にある東北の中で唯一、平均を上回る伸びを見せていますね。


▲「滝廉太郎を文化の街・富山のシンボルにすることに大賛成です!」と、笑顔でインタビューに答える中沖氏(1989年1月号より)。

 

富山県を全国のモデルに

中沖 広域ブロックの一極に人口が集中しつつある傾向が見られるということですね。日本全体で見ると東京、北海道であれば札幌というように、範囲の違いはあっても、一極集中化は見られますね。私はこれは決していいことだと思っていないんです。
 第4次全国総合開発計画では、多極分散型の均衡ある国土の発展を目指すことがうたわれております。日本における東京や、北海道における札幌というような、一極だけを良くしようというのではなく、それぞれが発展していき、交流し合うことが大事なんです。
 これを富山県の場合でいうと、富山県での一極、富山市だけが良くなるという発想ではなく、数ある市町村の各々が発展し、交流のネットワークが作られていく形が望ましい。そういう意味からも、人口集中度が低く、県内全域にバランスよく居住するといった特性は、富山県にとって幸いしていると言えます。
 国土の均衡ある発展という観点でも、全国のモデルとなり得ます。富山県全体が、地域としてぐーっと盛り上がっていくことがベストですね。

中村 これからの我々の行動力が試されていると言えますね。

中沖 都市の人口が多いことが発展の要素になることは確かですけれども、ただ人口が多いだけで本当に魅力ある都市とは言えないですね。小さい街であっても何とも言えない風情のある、例えば尾道だとか。——そうした都市をつくることが私は大事だと思います。いたずらに人口の増加を誘ったり、現象を悲嘆したりするのは間違いだと思います。
 人の心を打つ、ワクワクさせるような、親しみを感じさせるような風格のある都市をつくることが肝要と考えます。県民の皆さんに、これからもぜひ、やる気も知恵も汗も出していただいて、他県の人から、「富山へ行ったら素晴らしい県民が多かった。〝富〟が〝山〟とあるだけでなく〝心の富〟が〝山〟とあった」と言ってもらえるようにしたいものだと思います。

中村 そのように言ってもらえる富山にできるかどうかは、県民一人一人の行動にかかっていますね。ところで、松川の遊覧船には乗っていただけましたか?

中沖 オープンの折は都合がつかず、商工労働部長に代理で行ってもらいましたが、大変楽しかったと報告を受けています。機会を見て、私もぜひ乗船したいと思っております。

中村 今日はお忙しい中、丁寧に応対いただき、誠にありがとうございました。

 

▼1987年に設立。今年で創業33周年を迎え、富山市中心部の観光のシンボルとなっている松川遊覧船。

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