松川のグランドデザインを考える(京田憲明さん)
Special Interview
富山市都市整備部長
京田 憲明 さん
聞き手/月刊グッドラックとやま 発行人
中村 孝一
昭和31年(1956年)2月14日生まれ。富山市生まれ。明治大学農学部卒(造園学)。 昭和54年、富山市入庁、主にまちづくり関係の部署に勤務。公園緑地課では、「富山能楽堂日本庭園(S.62)」「城址公園親水広場(S.63)」などを設計・工事監理。都市計画課では、「都市計画マスタープラン」、「景観形成ガイドライン」の策定などを担当し、富山駅北地区都市みらい計画(新都市拠点整備)にも参画。 平成10年4月 都市再開発課まちづくり計画係長。市街地再開発など中心市街地活性化に関する業務を担当。 平成18年4月 都市再生整備課長。平成19年9月 「グランドプラザ」オープン(計画・整備・運営に中心的に取り組む)。 平成19年9月 「総曲輪通り南地区再開発事業」(富山市最大の商業再開発)竣工。 平成21年4月 農林水産部次長。平成22年10月 中心商店街での農産物直売所「地場もん屋総本店」オープンに参画。 平成25年4月 都市整備部長 現在に至る。
「川を使った庭を作りたい」との思いで
中村 遊覧船をスタートする時も、当時の中沖知事は松川を生かした方がいいという考えでしたが、建設省から来ておられた河川課長や土木部長は、船をうかべたり、何か構造物を作ることに対して反対でしたね。どういう経緯で「親水の庭」のようなあれだけのものをうまく作れたんですかね?
京田 もう26年前の話で、私もまだ若かったし、どういう経緯で仕事が来たか、あまり覚えていないのですが。ただ、水を流す機能を優先していた当時の川というものに、少し掘り込みも作って、修景を考えるということをやらせてもらえるということで、面白そうなことができるなと思ってやってましたけど。河川法がどうとかというよりは、川を使った庭を作りたい、という思いの方が強かったですよね。
京田さんがまだ平の技師だった頃に設計・工事監理を行なった「親水の庭」(S.63)
サンアントニオも日本庭園的
中村 本当に、「親水の庭」は一つの改革でした。富山市に風穴を空けた、と思いましたよ。
京田 いえいえ。私は残念ながら、サンアントニオは行ってませんが、サンアントニオの水路のふちも、日本庭園ではないですけど、ある意味、日本庭園的要素をやっぱり取り入れていると思います。いわゆる単調でなくて、ちょっと行くごとに風景とかディテールが変わっていくというところが。
中村 そうなんです。日本人が見ても、自然の中に溶け込めるような。例えば、リバーウォークの床も、細かい石をまぜたり、道も曲がっていたり、高くなったり、低くなったり、それでいて女性の方はハイヒールでも歩けるようになっている。
京田 そうそう。変化があると飽きさせないし、その先はどうなっているんだろう、という期待感もあります。日本庭園でも、園路をわざと曲線にして、先まで見通せないようにしておいて、そのカーブを曲がると、次の景色を見せる、というようなことをやります。
中村 「回遊式庭園」などは歩いていて本当に楽しいですね。
京田 それは、平面図を描いてもわからない世界で、パースを描いたり、図面をわざと斜めにしてみたりしながら、そこにある石とか、木とか、水の流れとか、そういうものがどう見えるだろうってことを頭の中に置いて、それで図面を描きながら計画を作っていくということを、サンアントニオは必ずやっていると思います。
中村 やってますね。私も日本庭園が好きで、国内の有名なところ、四国の栗林公園や京都の桂離宮などを見ましたけど、兼六園はやっぱり素晴らしいね。山の中へ入り込んだような谷があったり、小川が流れていたり、滝があったり。親水の庭はその要素をまさに凝縮してあって、本当にうまく考えられたと思いますね。
京田 若い間に面白い仕事をさせてもらったと喜んでいます。能楽堂の茶室の庭もその前年ぐらいに担当させてもらって、結構、日本庭園の勉強もさせてもらって。松川は、富山のまちなかを流れる、ヒューマンスケールな川ですから、もっと大事にすべきですね。もう一工夫すれば、松川の価値は、それこそ10倍にも100倍にも上がると思います。
中村 ある人が、松川はダイヤモンドに例えると原石のまま。磨きをかけるともっともっと光ってくる、と。
変化があり、飽きさせない(サンアントニオ)
日本庭園的要素が取り入れられている(サンアントニオ)
見た目の美しさと清潔さが大事
京田 船に乗って両側の景色を眺めながら下れるとか、あるいは、両側をしっかり整備された中で歩けるというのはすごく大事です。今、歩ける場所は作ってありますけど、そこを気持ちよく歩いてもらうには、そこがいつも「きれい」であることが大事。「きれい」というのは、見た目の美しさと、清潔という意味の両方あるんですが、その両方がないと駄目なんですね。見た目の美しさとは、単調では駄目なんで、行くところ行くところに、ちょっとずつ変化がある。横から流れ込んでいる川をうまく使って、滝のようにしつらえて水を落としてみせるとか。マンホールの不細工な口から、ただ流れ出てるだけじゃなくてね。もう一つ大事なのは、歩くところがドロドロのぬかるみでは、とても歩く気がしないんで。そこもちゃんときれいになってて、長靴じゃなくても歩けるような状態に。もう一つは、横の土手が近過ぎるんですね。近過ぎると歩いてる時に、服とかくっつくんじゃないかと不安になる。悪く言うと、工事現場の仮通路みたいな。それで、いつも人が歩いてないので、たまに大きな水がついて、泥とか砂が上がっても、どうせ人が歩いてないんだから掃除しなくていいじゃないか、と言って放っておくと、汚れてるんでまた歩かなくなる。いわゆる悪循環に入っちゃってますよね。城址公園は富山市の中心部の一番大事な公園で、優先順位はナンバーワンなんですよ。そういう意味では、管理水準も他の公園とは全然レベルが違う。いつもゴミも落ちてないし、砂埃にまみれて汚いとか、カラスの糞で汚いという状態であっては絶対駄目なんですね。
橋のたもとに階段がある(サンアントニオ)
どこか一つの区間でいいものを作る
中村 サンアントニオは本当に庭園の中を歩く感じで、歩いていて楽しい。これはどうすれば富山にできるんでしょうね?
京田 やっぱり、どこか一つの区間でもいいですから、本当にちゃんといいものを作って見せるというのが大事だと思います。こういうことをずっと繋げていって、上流も下流も延ばしていきたいんだと。やっぱり、城址公園のところのエリアが、一番最初に手がつけやすいと思いますね。
中村 せめて城址公園の対岸側に、遊歩道があればいいですよね。もちろん、川幅をせばめるのではなく、土手の石垣のスペースを使って。例えばリバー劇場の延長線上で七十二峰橋に向かって伸ばし、スロープで橋のたもとに上がれるようにするとか。ただ、川幅はこれ以上絶対にせばめてはいけないですね。
京田 基本の川幅は確保しながら、ところによっては広がったり。広がったところには、サンアントニオで言うと、そこにレストランがあったり。まさしく川に沿った街、歩いていて楽しい場所にする。
中村 恋人も、お年寄りも心を和ませてくれる場所に。
ところどころにある洒落たレストラン(サンアントニオ)
費用は実はそんなにかからない
京田 とはいえ、費用は実はそんなに高くないと思っているんですよ。建築物を作っていくという話でなくて、石と泥とコンクリートと、そういうものの世界なんです。金をかけるからいいものになるとかじゃなくて、いかにいい設計をするか。親水の庭を作った時も、特に新しいお金のかかるものを持ってきたわけでなくて、樹木なんかも、もともとあのへんにあったものを移植して使ってるんです。
中村 県庁の南別館と松川の間の車道をなくし、公園として一体化したらという意見もありますよね。
京田 ヨーロッパなんかへ行くと、ライジングボラードと言って、電動で下から車止めが上がってくるんですよ。許可をもらった人はリモコンを持ってて。
中村 なるほど。あそこを公園として一体化できると、まさに松川が、ガーデンシティの真ん中を流れる曲水のようになって、一層市民や観光客の憩いの場所になるでしょうね。
京田 あの区間は、なにか面白い事を、あまりお金をかけずにできるエリアとして、夢が広がりますね。
健康まちづくりに、松川整備は大きなインパクト
京田 富山市は、健康まちづくりというテーマに取り組み始めたところです。これまでは、健康と言うと、病院とか介護とか福祉とかの話だろうという思いでしたけど、まちづくりで健康にするという視点が注目されていて。やっぱり歩くことは健康につながって、医療費の削減にもつながる。
中村 ということは、歩いて楽しい街を作ることが…
京田 そう、健康にもつながって、医療費や介護の費用が下がるということは、国民全体にとっていい方向に動くんですよね。そういう意味では、ただ、歩きましょうでなくて、思わず歩きたくなる街、歩いて楽しい街を作るというのは非常に大事。用がなくても歩ける場所を中心部の松川を整備してつくるというのは、非常に大きなインパクトがありますね。
中村 ヒューマンスケールな設計で、すばらしい眺めがあちこちにあり、歩くのが楽しく、やすらぎ、開放感があり、清潔で緑豊かな雰囲気、リゾート地にいるみたいに心をなごませてくれる、そういう場所をつくれたらいいですね。
京田 新幹線で来たお客さんが、富山駅から来て松川の散歩道を歩いてみたら、非常にいい場所があって、散歩して非常に気持ちよかったと。で、途中で洒落たレストランがあったり、珍しい物を買える店があったり。そういうものがあると、口コミで全国に広がって、富山全体に来て頂ける人も増えるでしょうし。
中村 松川の遊覧船はベネチアのゴンドラのように、街ににぎわいと楽しさを与えてくれる、とおっしゃる方が増えてきましたが、これからもロマンチックな街にしていきたいですね。本日はありがとうございました。