たくさんの舟で賑わった木町の浜(旧神通川〈現・松川〉といたち川の合流点付近)

 江戸時代、松川(当時は神通川)といたち川の合流点付近は、『木町の浜』と呼ばれ、下流の東岩瀬(加賀藩領)までの2里(約8キロメートル)は、白帆を張った40石積の舟が絶えず航行しました。(上流は、牛ヶ増村・寺津村まで上っていたそうです)
 『木町』という名前がつけられたのは、「川流しされてきた木材を引き揚げて貯蔵し、その木材をまた舟に積み、大坂へ回送する木材集散地であったから」(廣瀬誠さん)とのこと。当時、上流の飛騨国から、飛騨木材が流されてきていました。
 ノーベル賞を受賞した田中耕一さんの実家はすぐ近くの新川原町で、お父さんがのこぎりの目立て職人をされていたというのもうなずけます。
 ちなみに、現在、神通川がここを流れていないのは、蛇行部分が原因でよく洪水が発生したため、北側へまっすぐ流れる分流路が明治34年(1901)から3年間かけて作られ(馳越線工事)、その後、洪水のたびに分流路が本流になっていき、昭和3年決定の都市計画事業で、松川、下流のいたち川となる部分約20mを残して埋め立てられたからです。(同時に、富岩運河が掘られ、出た土砂が埋め立てに使われました)
 木町の浜からは、米も積み出されました。領内の年貢米を収納する木町蔵、赤蔵〈富山城の北西・外堀に面していた〉、愛宕蔵〈旧・愛宕小学校の辺り〉、千石町蔵〈千石町通りの東側〉から木町の浜に集められ(〝浜出し〟と言った)、川舟に載せて川下げされました。木町蔵からは、寛文12年(1672)に6269石、延宝2年(1674)に8368石が積み出されています。米は西岩瀬・四方港(富山藩領)に運ばれ、そこから大坂へ運ばれました。富山藩からの大坂廻米量は、年間1万石〜2万2000石でした。
 その他、塩も運ばれて来ていました。海岸線の短い富山藩には製塩業の育つ余地はなかったので、上方塩、宗家加賀藩からの能登塩に頼らざるを得ませんでした。富山藩へは早くから瀬戸内塩が入っていましたが、安永・天明以降には能登塩が増産され、瀬戸内塩は少なくなっていきました。富山藩の塩の購入量は天明以降(1781〜)は4万俵から5万俵で、そのうち3万俵が富山藩領で消費され、残りの分は飛騨へ売られました。
 なお、神通川の河口はもともと西岩瀬・四方付近でしたが、1659年に東岩瀬側にも分流し、1668年の洪水で本流が東岩瀬西側へ東遷しました。このため、東岩瀬に繁栄の座を奪われてしまいましたが、西岩瀬も富山藩で唯一の港として、それなりに栄えたようです。古い流路を運河にする工事を行い、能登からの塩船を入れたりしていました。しかし、富山湾特有の寄り回り波で西岩瀬港は徐々に浸食され、明治初め頃には港としての機能をほぼなくしていました。
 一方、東岩瀬では、道正屋(現、馬場家)、畠山・宮城・森・米田といった廻船問屋が生まれました。彼らの持ち船は、バイ船と呼ばれました(瀬戸内・北九州の人々は北前船と呼びました)。バイ船は、4月中・下旬頃に東岩瀬を出帆し、鰊漁期の始まる5月頃までに北海道の松前に到着しました。松前への往航(下り)には農村から入手した白米・わら工品(縄・かます・むしろなど)・清酒・呉服類を運びました。わら工品は農業未発達の松前では漁業用として使われました。帰航(上り)には松前から魚肥(ニシン・魚粕など)・海産物(昆布・数の子など)を積み、9月上・中旬に帰港しました。廻船問屋から魚肥を購入した農民は、収穫した米で支払いをしていましたが、凶作の年は支払いができず、所有する土地を代わりに提供したため、廻船問屋の中には地主となるところも出てきました。木町の浜にはこうした魚肥や昆布などの海産物も運ばれて来ていたでしょう。
 天保9年(1838)に西岩瀬から北海道に出発し、その後、昆布を薩摩に運ぶ途中、三陸沖で暴風雨にあい遭難した「長者丸」の船頭・吉岡屋平四郎氏は、木町の出身でした。佐渡組売薬人で船頭としては素人でしたが、木町の浜で資材を積みおろす舟を見て、水運に携わる夢をみて、見様見真似で船頭を買って出る結果になったのだろう、と塩照夫氏は述べています。
 その他、越中売薬の行商人の薬荷や、大坂で仕入れて琵琶湖経由で敦賀から西廻り海運を利用して富山に輸送された薬種(薬の原料)も木町の浜を行き交ったことでしょう。
 また、呉羽山中腹に並ぶ「長慶寺五百羅漢」も木町の浜で陸揚げされたそうです。佐渡で刻まれた羅漢さまがバイ船で東岩瀬まで運ばれ、川登船に積み直されて木町の浜まで運ばれ、そこから荷車で長慶寺まで運ばれました。(発願した黒牧善次郎氏は米穀商・廻船問屋でした)

参考文献/「富山市史 通史〈上〉」、「神通川と呉羽丘陵」(廣瀬誠著・桂書房)、「昆布を運んだ北前船」(塩照夫著・北国新聞社)、「富山県史 通史編Ⅳ」



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