『橋』を生かし、富山にヒューマンスケールな都市空間を!

・創刊45周年記念企画 2022 グッドラック 街づくりを考える・
– 「グッドラックとやま」 平成7(1995)年5月号座談会より –

 向こう岸へ行くためにはなくてはならない存在でありながら、普段は何気なく通り過ぎてしまう『橋』。しかし、『橋』はただ川を渡るためだけではなく、人と人を結びつける重要な役割を持っている。今回は、街づくりにも大きな影響を与える『橋』について、有識者が語り合った座談会を振り返ってみたい。

◇座談会出席者
[役職は平成7(1995)年の座談会開催当時]

阿部昌夫 さん
富山土木事務所 所長

小沢伊弘 さん
㈱アイバック 代表取締役

澤田要作 さん
北陸中央食品㈱ 会長

柴田裕弘 さん
GA開発研究所 所長

布村 弘 さん
高岡法科大学 教授

 

富山らしい夢のある橋を

中村 全国的にも豊富な水量を誇る富山県は、多くの河川に恵まれています。これらの川には必然的に『橋』が架かっているわけですが、残念ながら、名橋と呼べるにふさわしい魅力的な橋は少ないように思います。
 一方、世界でも水の都と言われる都市には、非常に芸術的でシンボリックな橋が多いですね。北のベニスと言われるベルギーのブルージュなどでは、街の名前自体が『橋』という意味だそうです。
 さて、「水の王国」を目指す富山県にとって、今後どのような橋をかけていくかということは、非常に重要な問題です。富山ならではの魅力あふれる橋を期待したいですが、今回は皆さんに、この「橋」に対する夢を大いに語っていただきたいと思います。
 柴田さんはベネチアに何度か行かれたそうですが、橋の印象はいかがでしたか?

柴田 やはり歴史ある〝水都〟ということで、橋の手すりひとつにしても、長い時間の中で細かく使い分けられていましたね。日本の橋も、昔はずいぶん時間をかけて作られていたようですが……。
 そもそも川は、コミュニティとコミュニティを隔てるものであり、橋を架けることでそれらをつなぐことができたわけです。ゆえに、橋には人々の深い思い入れがあったと言えるでしょうね。
 今、橋は自動車交通の中で車につなぐ機能だけを重視されがちですが、そこにどのような思いを込めていくかが大切ではないかと思います。

布村 柴田さんのおっしゃる通り、本来、橋はその街の歴史や住民の意識を反映しながら、長い時間をかけて作られるべきものだと思いますね。
 特に、富山市のように平板な街では、橋のデザインをもっと工夫することによって、新たな景観美を生み出すことができるのではないでしょうか。

中村 行政のお立場からはいかがでしょうか?

 

時代とともに変わる橋の位置付け

阿部 橋の位置付けは時代とともに変わってきておりますし、そこにも長い歴史があります。古くは友好のシンボル、そして他地域からの流入を監視するべき行政的な場所……。そして、現代の車社会は、橋そのものが意識されなくなった時代であると言えます。
 西洋の石の文化に対し、木の文化といわれた日本も、急速な車の普及に対応するべく、昭和30年以降は猛スピードで橋が架けられました。その結果、機能性のみが追求され、芸術的な視点や歴史性を忘れてきたことは否めません。
 しかし、昭和40~50年代に入り、心の豊かさが求められるようになりますと、従来の橋の位置付けを考え直そうという動きが出てきたんですね。よって、近年の橋には様々な視点が取り入れられるようになりましたが、かなり取って付けた部分もあるんですよ。バルコニーや親柱、高欄に趣向を凝らしたり、ライトアップしてもなんとなく違和感がある。つまり、化粧するだけではダメなんです。
 これからは橋自体のプロポーションを良くしていく時代です。そして、素材を生かしたり、街並みとの一体化をはかるなど、周辺を含めた整備も必要になって来ると思いますね。

 

都市環境に花を添える橋

小沢 ひと言で橋と言っても、機能を果たしていかねばならない大きい橋、生活道路としての市街地の橋、遊歩道の橋等、様々な橋があります。ゆえに、その橋の意味を考えずにいろんなことをやってしまうと、まったくアンバランスになってしまうわけです。
 今後の橋梁整備で重要なのは、まず現状の橋を美観的に見直すこと、それぞれの意味合いを考慮してシンボル化すること、そして人間空間における「遊び」の橋を整えていくことではないでしょうか。 ちょっとした遊歩道や橋をうまく利用することによって、景観はグンと良くなります。都市環境に花を添える大切な要素として、橋を理解する必要がありますね。

中村 澤田さんは以前、松川の華明橋と塩倉橋の間に桜木町から市役所に渡る橋を設けてはどうかと提案なさっておられましたね。

 

松川に回遊性を高める橋の設置を

澤田 桜木町は江戸時代に千歳御殿があった由緒ある場所でもあり、新庁舎が建ったのを機に名所になるような美しい橋を架けてほしい、とお願いしておりました。
 塩倉橋は城址大通りが横切っているため通行量も多く、老人や子供には危険なんですね。歩行者専用の橋ができれば安心して渡れますし、ぜひ実現できないかと思っているんですが……。
 しかし、この橋を架けると、橋と橋の間が近くなりすぎると言われましてね。

中村 私も最初、あまりに近いかなと思ったのですが、距離が近いことによって人の賑わいが生まれてくるんですね。それぞれの橋を渡っている人の顔が見えますし、とても楽しい雰囲気になると思います。

阿部 回遊性という点でも、人の流れが生まれるでしょうね。老朽化している華明橋※はいずれ市が架け替える予定ですし、その時に何らかのきっかけがあるかもしれません。

柴田 これからは特に市街地の橋において、人が渡る橋と車が渡る橋を分ける、ということも考えていかねばならないと思います。
 なぜなら、車でアッという間に通り過ぎる場合とゆっくり歩く場合とでは、橋に対する意識が違ってくるからです。歩行者の視点で展開していけば、もっともっと橋にいろんな可能性を見出せるのではないでしょうか。

布村 先ほどコミュニティとコミュニティの境目に橋があるという話がありましたが、橋は語源的にも、物事の端と端をつなぐという意味を持っています。しかし、いったん橋を架けてしまうと、そこが端っこから中心に変わってしまうんですね。このような橋の役割を、きちんと認識しておくことも大切ではないかと思います。

中村 橋が人々に愛され、中心的役割を果たすためには、利用しやすいということも大切です。しかし、その点については、これから見直していただきたい点が多いですね。
 例えば松川には川沿いに遊歩道(リバーウォーク)がありますが、橋からすぐに降りられませんので、下へ降りて散歩してみようという気にならないわけです。遊歩道自体、橋によって1回1回途切れていますしね。
 アメリカのサンアントニオという街の中には、松川に非常に良く似た川が流れているんですが、橋を非常にうまく使って楽しいリバーフロントを作り出しています。そこでは、橋から川を覗いた時に、川辺へ降りて遊歩道を歩き、そこに架けられたアーチ橋を渡って又すぐに戻ってこれるということが想像できるんですね。松川沿いも、こんな風にならないかと思うんですが……。

※現在の華明橋は、平成9年(1997年)6月に架けられた。

 

▼アメリカ・サンアントニオのリバーウォークには、散歩を楽しめる様々な仕掛けが工夫されている。

 

阿部 松川辺りは桜の名所であり、64艘の笹舟を繋いだ舟橋が架けられていた歴史もあることから、人と川がもっと近づけるようにと遊歩道を作ったわけです。
 この歩道に関しては、最初は橋の下を連続させようという計画もありました。しかし、いろいろな制約や工事の難しさのために実現できなかったんです。
 さらに橋詰からすぐに川辺りのリバーウォークへ降りられるようにする場合、階段が急になってしまうという問題があります。
 このように課題も多いわけですが、松川は市の公園にもなっていますから、園路として「橋」を考えていくことは可能です。そこから何らかの解決策が生まれてくるかもしれませんね。

中村 富山の新庁舎は水辺に建つということで、世界的にも有名なスウェーデンのストックホルム市庁舎を参考に、神通川を行き交っていた帆船がデザインされており、世界的に見ても非常に優れています。橋も世界各地の橋を研究してみる価値はあると思います。
 そして、架け替える際にはその歴史を大切に、デザインや人間性をもっと考えた「後世に残す由緒ある橋を架けるんだ」というくらいの信念を持って、千年の歴史にも耐えられるような立派な価値のある橋を架けていただきたいと思います。

 

橋の役割を認識し、地域にふさわしい橋を

小沢 貧しかった頃は、機能を満たすだけで精一杯。橋も道路も、すべてそんな形で進んできたと言えるでしょう。
 しかし、現代のようなゆとりのある段階では、都市計画が大変重視されるようになりました。全体の予算の5%は景観やデザインのために使うなど、人間が暮らす空間としての快適さが求められているわけですね。
 これからは橋ひとつにしても、常にヒューマンスケールな視点で考えながら、都市計画を進めていくべきだと思います。

柴田 私どもでは、入善で「水の小径」という新しい川を作ったことがあるんですが、川の水際はこれからの都市に非常に大切であると同時に、人間には依然として水に対する恐怖感があることを忘れてはいけないと感じました。
 そう言った意味で、水辺に降りる階段とともに、上がる階段もきちんと見えるようにしておくべきではないでしょうか。

澤田 松川も時代とともに変わってきましたが、富山の宝として、今後より一層の環境整備をお願いしたいですね。特に橋については、便利さとデザインを工夫していただき、〝水の王国・富山の〟シンボルとなるような名所になればと思っています。
 また、「舟橋」の復活も、富山の歴史を後世に残すという意味で、ご検討いただければと思います。

布村 先ほども申し上げた通り、〝橋〟は決して〝端〟ではなく、むしろ中心になるべきです。そして、我々にとっては人間性回復の場所だと思うんですね。
 橋の上で立ち止まり、川の流れを見つめながら、自分の歩いてきた道を振り返る……。慌ただしい日常の中で、これからの橋の役割は非常に大切だと思います。

阿部 土木技術に携わる者といたしまして、私は用・強・美の調和が一番重要だと考えています。「用」は機能性、「強」は強度・耐久性、「美」は単体としての美はもちろんのこと、周りの景観の中における美という面もありますね。
 これらの調和を常に念頭に置き、その地域にふさわしい橋づくりを目指していかねばならないと思っています。

中村 今まで、橋はどうしても端っこに追いやられた存在だったような気がいたします。橋が私たちの人生の中心にあって、人々の喜びや悲しみなど、ストーリーさえも生み出していくことができたとしたら……。そんな身近な存在になったら素晴らしいでしょうね。本日は、誠にありがとうございました。

 

▼自然と橋の美しいコラボレーションが、遊覧船の乗客を楽しませる。(アメリカ・サンアントニオ)

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