官民連携で市民が誇れるゲストパークを創造しよう!
・創刊45周年記念企画・ 2022 グッドラック 街づくりを考える
県都・富山のシンボル空間である富山城址公園と松川の環境整備を進めるために必要なことは何か-。管理レベルのアップで、「歩きたくなる街」をめざす富山市の現状と課題について伺った。
京田 憲明 氏 富山市民プラザ 社長(元富山市都市整備部長)
●聞き手/中村 孝一(月刊グッドラックとやま発行人)
城址公園と松川は富山市中心部の財産
中村 京田さんが市の公園緑地課時代に担当された城址公園の「親水のにわ」は、富山にとって一つの改革でしたね。当時、県の河川課長だった島倉さんと、都市計画課の埴生係長のアドバイスだったそうですね。松川を活かした趣のある空間が誕生し、松川遊覧船の〝七橋めぐり〟の運航コースの中でも最大の見所になっています。
京田 もう33年前の話ですが、若い間に面白い仕事をさせていただき、ありがたく思っています。能楽堂の茶室の庭もその前年ぐらいに担当し、結構、日本庭園の勉強もさせていただきました。松川は、富山のまちなかを流れる、ヒューマンスケールな川ですから、もっと大事にすべきですね。もう一工夫すれば、松川の価値は、それこそ10倍にも100倍にも上がると思っています。
中村 ある人が、城址公園と松川はダイヤモンドに例えると原石のまま。磨きをかけると、もっともっと光り輝いてくる、とおっしゃっておられましたね。
見た目の美しさと清潔さがポイント
京田 船に乗って両側の景色を眺めながら下れるとか、あるいは、両側をしっかり整備された中で歩けるというのはすごく大事です。 今、歩ける場所は作ってありますが、そこを気持ちよく歩いてもらうには、そこがいつも「きれい」であることが大事です。「きれい」というのは、見た目の美しさと、清潔という意味の両方あるんですが、その両方がないと駄目なんですね。見た目の美しさというのは、単調では駄目で、行くところ行くところに、ちょっとずつ変化がある。横から流れ込んでいる川をうまく使って、滝のようにしつらえて水を落としてみせるとか…。マンホールの不細工な口から、ただ流れ出てるだけじゃなくてね。
もう一つ大事なのは、リバーウォークの清潔な管理。歩くところがドロドロのぬかるみでは、とても歩く気がしないんです。そこもちゃんときれいになってて、長靴じゃなくても歩けるような状態にするのが大事ですね。
もう一つは、横の土手が近過ぎるので、歩く時に服が汚れるんじゃないかとの不安もあり、人通りが少ない。悪く言うと、工事現場の仮通路みたいな感じですね。すると、たまに大水で泥や砂が上がっても、どうせ人が歩いてないんだから掃除しなくていいじゃないか、となる。それで放っておくと、よりいっそう人が歩かなくなる。いわゆる悪循環なんですね。
城址公園は、県都・富山市の中心部にある一番大事な公園です。市民はもちろん、世界中からいらっしゃるお客様のゲストパークでもあり、優先順位はナンバーワンなんですよ。そういう意味では、管理水準も他の公園とは全然レベルが違うんです。雑草が生えていたり、ゴミが落ちていたり、砂埃にまみれて汚いとか、カラスの糞で汚いという状態であっては、本来は絶対に駄目なんです。
城址公園管理の現状と課題
中村 私は毎日、城址公園を散歩しているんですが、市民の方にお会いすると、「清掃をしている人をほとんど見たことがない」と言われます。県都富山市の中心部にある〝特別な公園〟だという認識が、富山市にはないようですね。
京田 専属に常駐する人が一人いれば、ずいぶん違うと思いますが、今の体制では難しいでしょうね。市内の公園をあちこち回らなければならないので、手が回らない状態なのだろうと思います。
▼以前はただの土手だった松川の護岸。1989年、中沖知事がアメリカのサンアントニオを視察。「川に面した劇場や美しい庭園など、快適で美しい環境づくりが大変重要」と帰国報告された。
雑草の管理に見る城址公園の実態
中村 先日も園内の草が伸びてきているなと思っていたら、ある日、除草剤をかけられてすっかり茶色になっていました。すぐそばに木や芝生もあるのに影響はなかったのだろうかと、とてもびっくりしました。
京田 草も上手に管理すれば、逆に利用できるんですけどね。イネ科の強い雑草ではなく、時期によってタンポポやスミレが広がるようにすれば、見た目も見苦しくないですし…。
除草剤をかけると、生態系が全部ダメになってしまい、痩せた荒地になるんです。そして、そこに生えてくるのはまた除草剤をかけたくなるようなスギナなどの強い雑草です。
中村 公園が大切な場所であるという思いがあれば、除草剤をかけるということにはならないと思うんですがね。
負のスパイラルに陥る公園管理
京田 最近は市が公園の管理を民間に委託するという形になっていますが、そこが負のスパイラルになっているんでしょうね。引き受けた民間が収益を上げ、その収益を管理に反映させることで、さらに人が集まるという良い循環を作っていくべきなのに、儲からない、と言って手を抜き、そのため管理の質が低下し、さらに人が遠のき、収益も下がるという状態。
中村 たまに県の中央植物園にも行きますが、池や小川があり、木も大きくなって非常にいい感じになっていますね。城址公園の4〜5倍の広さはあると思いますが、雑草も目立ちませんし、管理が行き届いていると思います。
京田 植物の生態がわかるプロがいると、管理も全然違ってくるのでしょうね。
中村 城址公園の現況はなかなか厳しいですが、憂えてばかりもいられませんし、少しでも解決策が見つかればと思います。この城址公園、松川一帯の魅力を最大限に引き出していくためには、まず何が必要でしょうか?
▼松川の土手を切り取って、2000年に完成した「リバー劇場」。毎年、春には箏の演奏会、秋には「リバーフェスタ」などが開催され、“水の都とやま”の賑わいを作り出している。(写真/箏演奏家 太田衣代さん)
いいものを作り、少しずつ拡大する
京田 やはり、松川のどこか一つの区間でも、本当にちゃんといいものを作って見せるというのが大事ですね。このような場所を、松川の上流と下流に延ばしていきたいんだと市民にもわかりやすく提示する。その点でも城址公園の松川に面したエリアが、一番最初に手がつけやすいと思いますね。
中村 せめて城址公園の対岸側に、遊歩道があればいいですよね。もちろん、川幅を狭めるのではなく、土手の石垣のスペースを使ってですが。例えば、リバー劇場の延長線上で七十二峰橋に向かって遊歩道を伸ばし、スロープで橋のたもとに上がれるようにすると回遊性が高まりますよね。ただ、川幅はこれ以上絶対に狭めてはいけないと思います。
京田 基本の川幅は確保しながら、ところによっては広がったり。広がったところには、レストランがあったりと、まさしく川に沿った街、歩いていて楽しい場所にすることですね。
中村 誰もの心が和むような場所ですね。
お金をかけなくても工夫次第で
京田 とはいえ、費用は実はそんなに高くないと思っているんですよ。建築物を作っていくという話でなくて、石と泥とコンクリートと、そういうものの世界なんです。お金をかけるからいいものになるというのではなくて、いかにいい設計をするかが大事だと思うんです。
「親水のにわ」を作った時も、特に新しいお金のかかるものを持ってきたわけでなくて、樹木なんかも、もともとあの辺にあったものを移植して使ってるんです。
中村 工夫次第で、いろんな可能性が生まれますよね。県庁の南別館と松川の間の車道をなくし、公園として一体化したらという意見もありますよね。
京田 ヨーロッパへ行くと、ライジングボラードという電動で下から車止めが上がってくる仕組みがあり、許可をもらった人だけが、リモコンを使って入れるんです。
中村 なるほど。あそこを公園として一体化できると、まさに松川が、ガーデンシティの真ん中を流れる曲水のようになって、いっそう市民や観光客の憩いの場所になるでしょうね。
京田 あの区間はなにか面白い事を、あまりお金をかけずにできるエリアだと思いますよ。
城址公園と松川の整備で、歩きたくなる街に
中村 富山市は「歩きたくなる街づくり」を進めていますし、その面からも管理面や再整備を考えていただきたいですね。
京田 歩くことは健康にもつながりますからね。医療費や介護の費用が下がるということは、国民全体にとってもいい方向に動くんです。そういう意味では、ただ、歩きましょうではなくて、思わず歩きたくなる街、歩いて楽しい街を作るというのは非常に大事です。 特に用がなくても歩ける場所を、中心部の松川を整備してつくるというのは、非常に大きなインパクトがありますね。
中村 ヒューマンスケールな設計で、すばらしい眺めがあちこちにあり、歩くのが楽しく、やすらぎ、開放感があり、清潔で緑豊かな雰囲気、リゾート地にいるみたいに心をなごませてくれる、そういう場所をつくれたらいいですね。
京田 富山駅で新幹線を降り、松川の散歩道や城址公園を歩いてみたら、非常に気持ちよかったという観光客が増えると、口コミで全国に広がって、富山全体に来ていただける人も増えるのではないでしょうか。
中村 松川の遊覧船はベネチアのゴンドラのように、街に賑わいと楽しさを与えてくれる、とおっしゃる方が増えてきました。神通川から誕生した〝水の都とやま〟のシンボルとして、松川を中心に夢のような世界を創造したいですね。本日は誠にありがとうございました。
▼全米ナンバーワンの人気都市・サンアントニオ。護岸を切り取ったリバーウォーク沿いには、レストラン、カフェテラス、ホテル、店舗が作られ、リゾート感あふれる憩いの場となっている。